酒造りに欠かせぬ道具:留点温度計
お酒を知りたい
先生、「留点温度計」って、普通の温度計と何が違うんですか?お酒を作るのに、なんで特別な温度計を使う必要があるんですか?
お酒のプロ
良い質問だね。留点温度計は、普通の温度計と違って、一度上がった温度が下がっても、その最高温度を「留め置く」ことができるんだよ。だから、麹菌や酵母が活動する最適な温度を管理したり、発酵がうまく進んでいるかを確認したりするのに役立つんだ。
お酒を知りたい
なるほど!最高温度がわかるんですね!でも、なんで最高温度が大事なんですか?
お酒のプロ
お酒作りでは、温度が高すぎると麹菌や酵母が死んでしまうし、低すぎると発酵が進まない。だから、最高温度を把握することで、麹菌や酵母の活動に最適な温度範囲を保てているかを確認できるんだ。留点温度計は、そのための重要な道具なんだよ。
留点温度計とは。
お酒作りで使う道具の一つに「留点温度計」というものがあります。これは水銀を使った温度計の一種で、これまでの最高温度を記録しておくことができるものです。麹作りやお酒のもととなるもろみの温度を測る時によく使われています。
温度を知る重要性
お酒造りは、生き物である微生物の働きによって成り立っています。お酒造りに欠かせない麹菌や酵母といった微生物は、まるで人間のように、温度によってその活動の様子を大きく変化させます。温度が低すぎると、これらの微生物は動きが鈍くなり、じっくりと時間をかけて働くようになります。これは、発酵がゆっくりと進むことを意味し、場合によっては発酵が十分に進まない可能性も出てきます。また、お酒の風味も、低温環境では十分に引き出せないことがあります。熟成にも時間がかかり、最終的に出来上がるお酒の味わいに影響を与える可能性があります。
反対に、温度が高すぎると微生物は活発になりすぎるきらいがあります。まるで人間が暑すぎると疲れてしまうように、微生物も働きすぎで疲弊し、本来の力を発揮できなくなることがあります。さらに、高温環境は、お酒造りにとって好ましくない雑菌にとっては快適な環境です。雑菌は高温で活発に繁殖し、お酒の品質を損なう原因となります。雑菌の繁殖は、お酒に好ましくない風味を与えたり、腐敗させたりする可能性があります。また、酵母が活発になりすぎると、発酵が急激に進み、これもまたお酒の風味に悪影響を与えることがあります。
そのため、美味しいお酒を造るためには、それぞれの工程で適切な温度を保つことが非常に重要です。麹造りでは、麹菌がしっかりと働くように温度と湿度を細かく調整する必要があります。仕込みの段階では、酵母が順調に発酵を進める最適な温度を維持しなければなりません。貯蔵の際も、お酒が熟成していく過程で温度変化が大きくないように気を配る必要があります。このように、酒造りのすべての工程で、温度計を用いて常に温度を正確に把握し、適切な温度管理を行うことが求められます。そして、留点温度計は、酒造りの現場で正確な温度管理を行うために欠かせない道具の一つなのです。
温度 | 微生物の活動 | お酒への影響 |
---|---|---|
低すぎる | 動きが鈍く、じっくりと働く。発酵がゆっくり進む。 | 発酵が不十分になる可能性、風味が出ない、熟成に時間がかかる。 |
高すぎる | 活発になりすぎる、疲弊する。雑菌が繁殖しやすい。 | 雑菌による風味の変化や腐敗、急激な発酵による風味への悪影響。 |
適切 | 麹菌や酵母が順調に活動 | 美味しいお酒ができる |
留点温度計とは
留点温度計とは、最高到達温度を記憶しておく特殊な温度計です。水銀を用いた温度計の一種で、温度計内部の毛細管の一部が狭くなっている構造が特徴です。
一般的な温度計は、周囲の温度変化に合わせて水銀柱が上下し、現在の温度を示します。しかし、留点温度計は温度上昇に伴い水銀が毛細管の狭い部分を押し上げられると、温度が下がっても水銀が狭い部分に戻ることができず、水銀柱の先端が最高温度を指し示したままになります。これが、留点温度計が最高到達温度を記録できる仕組みです。
この機能は、酒造りのような、刻々と変化する温度を常に監視することが難しい状況で非常に役立ちます。例えば、米麹を作る製麹の工程では、麹菌が繁殖する際に熱が発生し、品温と呼ばれる麹の温度が上昇します。麹蓋(こうじぶた)と呼ばれる容器に仕込んだ麹は、その内部の温度変化を常に監視することは困難です。しかし、留点温度計を麹の中に差し込んでおけば、製麹中の最高温度を容易に確認することができます。麹菌の生育には最適な温度範囲があり、この範囲を超えると麹菌の活動が弱まったり死滅したりするため、最高温度を把握することは良質な麹を作る上で非常に重要です。
また、蒸した米、麹、水を混ぜて発酵させる醪(もろみ)の工程においても、発酵熱による温度変化を把握するために留点温度計が用いられます。醪の温度も、発酵の進行に大きく影響するため、適切な温度管理は欠かせません。留点温度計を用いることで、醪の最高温度を確認し、発酵状態を適切に管理することができます。このように、留点温度計は、酒造りにおける温度管理に欠かせない道具となっています。
項目 | 説明 |
---|---|
名称 | 留点温度計 |
種類 | 水銀温度計の一種 |
特徴 | 毛細管の一部が狭くなっており、最高到達温度を記憶する。 |
仕組み | 温度上昇で水銀が狭い部分を押し上げられると、温度が下がっても水銀柱は戻らないため、最高温度を指し示したままになる。 |
用途 | 刻々と変化する温度を監視することが難しい状況での最高温度の確認。 |
酒造りでの使用例 |
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重要性 | 麹菌の生育や発酵の進行に最適な温度範囲を維持するために、最高温度の把握は重要。 |
留点温度計の仕組み
留点温度計は、最高到達温度を記録するための温度計です。その仕組みは、細いガラス管と、その中に封入された水銀の性質を利用しています。
このガラス管は、毛細管と呼ばれ、髪の毛のように細いです。毛細管の中には水銀が満たされており、温度の変化によって水銀の体積が変化することを利用して温度を測ります。温度が上がると、水銀は膨張し、毛細管の中を上昇していきます。この上昇の様子を、毛細管に印刷された目盛りと照らし合わせることで、現在の温度を読み取ることができます。
留点温度計の特徴は、最高到達温度を記憶できることです。これは、毛細管の一部に設けられた、わずかな狭窄部によって実現されています。温度が上昇していく過程では、水銀は狭窄部も通過して上昇していきます。しかし、温度が下がり始めると、水銀は収縮し始めますが、狭窄部で水銀柱が切断されます。狭窄部は水銀が上昇していくときには通れるものの、下降する際には水銀の表面張力によって水銀柱がそこで切れてしまうのです。結果として、毛細管内には、最高到達温度を示す水銀柱が狭窄部より上に残ります。私たちはこの水銀柱の位置を目盛りと照らし合わせることで、測定開始からその時点までの最高温度をいつでも確認できるのです。
次の測定を行うためには、留点温度計を勢いよく振る必要があります。遠心力によって、狭窄部より上の水銀が下の水銀と合流し、元の状態に戻ります。このようにして、留点温度計は繰り返し使用することが可能です。留点温度計は、最高温度を記録できるという利点から、様々な分野で活用されています。
項目 | 説明 |
---|---|
名称 | 留点温度計 |
目的 | 最高到達温度の記録 |
仕組み | 毛細管内の水銀の体積変化を利用 |
温度上昇時 | 水銀が膨張し、毛細管内を上昇 |
温度下降時 | 狭窄部で水銀柱が切断され、最高到達温度を示す水銀柱が残る |
リセット方法 | 勢いよく振ることで水銀柱を合流させる |
利点 | 最高温度を記録可能 |
使い方と注意点
留点温度計は、最高到達温度を測るために使われます。そのため、使う前にはいくつか準備が必要です。まず、温度計をよく見て、赤い目盛りのついた細い管の中に銀色の液体(水銀)があることを確認します。この水銀の位置が現在の温度を示す目印になります。使う前に、温度計を軽く振って、水銀柱を管の根本、つまり温度の低い方に戻しておくことが大切です。
温度を測りたいものの中に、温度計の先端部分をそっと入れます。この時、温度計の先端部分が測りたいもの全体を覆うように、深くまで入れるようにしてください。そして、十分な時間をかけて温度が上がっていくのを待ちます。温度が上がると、管の中の水銀は赤い目盛りの上を上昇していきます。温度が最高に達したところで、水銀の上昇は止まり、その後は温度が下がっても水銀柱はそのままの位置に留まります。これが留点温度計の名前の由来です。
温度が測れたら、温度計を測りたいものから取り出します。水銀柱の先端が示している目盛りが、最高到達温度です。目盛りを読み取ったら、次回の測定のために、温度計を軽く振って水銀を元の位置に戻しておきましょう。
留点温度計はガラスでできていますので、壊れやすいものです。落とさないように、また、強い衝撃を与えないように注意して扱いましょう。特に、温度計の中にある水銀は有害な物質です。もし温度計が壊れて水銀がこぼれてしまった場合は、決して素手で触らず、適切な方法で回収し、処分しなければなりません。水銀の回収方法や処分方法については、地域の指示に従ってください。
項目 | 説明 |
---|---|
名称 | 留点温度計 |
目的 | 最高到達温度の測定 |
原理 | 温度上昇と共に水銀柱が上昇し、温度下降後も最高到達点に留まる |
使用前準備 | 水銀柱を管の根本に戻す(軽く振る) |
測定方法 | 温度計の先端を測定対象に深く挿入し、十分な時間待つ |
読み取り方法 | 水銀柱の先端の目盛りを読む |
使用後処理 | 水銀柱を管の根本に戻す(軽く振る) |
注意点 | ガラス製のため、破損に注意。水銀は有害物質のため、接触を避け、適切に処理する。 |
酒造りにおける活用
お酒造りは、温度管理が味の決め手となる繊細な作業です。その中で、留点温度計はなくてはならない道具となっています。
まず、お酒のもととなる麹を造る製麹の工程では、麹菌が元気に育つように温度を細かく調整する必要があります。麹菌は生き物なので、温度が低すぎると活動が鈍くなり、高すぎると死んでしまいます。留点温度計を使うことで、麹菌が最も活発に活動できる温度を的確に捉え、質の良い麹を造ることができるのです。
次に、蒸した米、麹、水を混ぜ合わせて発酵させる醪(もろみ)の工程でも、留点温度計は重要な役割を果たします。醪の中では、酵母が糖分を分解してアルコールと炭酸ガスを生み出しています。この酵母の活動も温度に大きく左右されます。酵母の種類によって最適な温度は異なり、留点温度計で温度を細かく管理することで、雑味のないすっきりとしたお酒や、コクのある濃厚なお酒など、狙い通りの味に仕上げることができます。
さらに、出来上がったお酒を貯蔵する際にも、留点温度計は活躍します。お酒は貯蔵中も熟成が進み、味が変化していきます。貯蔵温度が高すぎると味が劣化し、低すぎると熟成が進みません。留点温度計を使って適切な温度で貯蔵することで、お酒の品質を保ち、最高の状態で出荷することができます。
このように、留点温度計は、麹造りから醪(もろみ)の管理、貯蔵に至るまで、お酒造りのあらゆる場面で活躍しています。長年培われてきた職人たちの経験と、留点温度計の正確さが組み合わさることで、今も変わらず私たちの食卓に美味しいお酒が届けられているのです。
工程 | 目的 | 温度管理の重要性 |
---|---|---|
製麹 | 麹菌の育成 | 麹菌の活動は温度に左右されるため、低すぎると活動が鈍り、高すぎると死滅する。留点温度計で最適な温度を維持する。 |
醪(もろみ) | 発酵 | 酵母の活動は温度に左右される。酵母の種類によって最適温度が異なり、留点温度計で管理することで狙い通りの味になる。 |
貯蔵 | 熟成・品質保持 | 貯蔵温度が高すぎると味が劣化し、低すぎると熟成が進まない。留点温度計で適切な温度を維持する。 |
他の温度計との違い
様々な温度計が登場している現代でも、酒造りの現場では留点温度計が欠かせない道具として活躍しています。それは一体なぜなのでしょうか。
近頃では、数値ですぐに温度が分かる便利な温度計がいろいろあります。しかし、酒造りの現場では、常に温度を見続ける必要があり、他の作業の邪魔になることもあります。また、もしも見逃してしまったら、一番高い温度がどれくらいだったのか分からなくなってしまいます。酒造りでは、この一番高い温度が、お酒の出来を左右する重要な要素となるのです。
一方、留点温度計は最高到達温度を記録するという、他にはない特徴を持っています。一度設置しておけば、一番高い温度を自動的に記録してくれるので、他の作業に集中できます。酒造りの過程では、温度の変化をじっくりと見守るよりも、最高温度がどれくらいに達したのかを確認することが重要になる場合が多く、留点温度計はこの目的に最適です。
さらに、留点温度計は構造が単純で壊れにくく、電池などの電源も必要ありません。水に濡れてしまったり、少し乱暴に扱ってしまっても、簡単に壊れる心配がないので、作業環境が慌ただしい酒造りの現場には大変適しています。
このように、最高温度の記録という他にはない機能と、丈夫で使いやすいという点から、留点温度計は今もなお酒造りの現場でなくてはならない存在であり続けているのです。
項目 | 留点温度計 | 他の温度計 |
---|---|---|
最高温度の記録 | 可能 | 不可能 |
作業への影響 | 低 | 高 |
耐久性 | 高 | 低 |
電源 | 不要 | 必要(場合による) |