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日本酒

酒の命、滓と澱

お酒造りの最終段階、搾りの工程を終えたばかりの新しいお酒は、美しく輝き、華やかな香りで私たちを惹きつけます。しかし、その透明な見た目とは裏腹に、実は目には見えないほど小さな粒子が無数に漂っています。これらは、時間が経つにつれて次第に集まり、沈殿物となって現れます。これが、滓や澱と呼ばれるものです。一見すると、滓や澱は単なる不要物、取り除くべきもののように思われがちです。しかし、実はこの滓や澱こそが、日本酒の味わいをより深く、複雑なものへと変化させる重要な役割を担っているのです。滓や澱の中には、お酒の旨味のもととなるアミノ酸や、豊かな香りのもととなる成分など、様々な物質が含まれています。滓や澱の種類も様々です。例えば、お酒を搾った直後に沈殿する「粗滓」は、比較的大きな粒子の集まりで、主に米の繊維やタンパク質などが含まれています。一方、瓶詰め後、長い時間をかけてゆっくりと沈殿する「澱」は、非常に細かい粒子で、アミノ酸や香気成分などが豊富に含まれています。これらの滓や澱が日本酒に与える影響も様々です。滓や澱を取り除いたお酒は、すっきりとした透明感のある味わいに仕上がります。これは、滓や澱に含まれる成分が取り除かれることで、雑味のないクリアな味わいになるためです。一方、滓や澱を混ぜたお酒は、より濃厚で複雑な味わいを愉しむことができます。滓や澱に含まれるアミノ酸や香気成分が溶け込むことで、旨味や香りが増し、奥行きのある味わいになるのです。このように、滓や澱は日本酒の味わいを左右する重要な要素です。滓や澱の種類や量、お酒との接触時間などによって、日本酒の味わいは大きく変化します。それぞれの日本酒の特徴に合わせて、滓や澱の有無を選択することで、より深く日本酒の味わいを楽しむことができるでしょう。
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ノンチルフィルタードの魅力

お酒造りの最終段階で、冷却濾過という工程があります。これは、完成間近のお酒を低い温度に冷やし、特殊な濾過装置に通す作業のことです。この工程の目的は、お酒の中に溶け込んでいるごく微量の油分や香り成分などを取り除くことです。お酒を低い温度にさらすと、普段は液体に溶け込んでいるこれらの成分が溶けきれなくなり、細かい粒となって現れ、お酒が白く濁ったり、沈殿物が底に溜まったりすることがあります。お酒の世界では、この現象を「オリ」と呼びます。冷却濾過を行うことで、この「オリ」の発生を抑え、透き通った美しい見た目のお酒に仕上げることができます。現在、市場に出回っている多くのお酒、特にウイスキーはこの冷却濾過を経て、消費者の手に届いています。冷却濾過には、見た目以外にもメリットがあります。例えば、お酒を長期間保存する際に、オリが原因で風味が変化することを防ぎます。また、お酒を冷やして飲む際に、オリが析出して濁ってしまうのを防ぎ、いつでもクリアな状態でお酒を楽しむことができます。しかし、近年「冷却濾過をしていないお酒」への関心が高まっています。冷却濾過をしない製法は「ノンチルフィルタード」と呼ばれ、あえてオリを取り除かず、お酒本来の風味や濃厚さを追求する製法として注目を集めています。ノンチルフィルタードのお酒は、温度変化によってオリが発生する可能性があるため、保存方法に注意が必要ですが、より複雑で豊かな味わいを楽しむことができるとされています。冷却濾過の有無によって、お酒の見た目や味わいが微妙に変化するため、飲み比べてみるのも面白いかもしれません。
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ウイスキーのろ過しない製法

お酒作りにおいて、ろ過という工程は品質を左右する重要な作業の一つです。ウイスキーも例外ではなく、熟成された原酒は冷却ろ過と呼ばれる工程を経て瓶詰めされます。これは、ウイスキーを低い温度に冷やすことで、脂肪酸やタンパク質といった成分が析出し、白濁したり、とろみが出てしまうのを防ぐための作業です。しかし近年、この冷却ろ過を意図的に行わない製法で作られたウイスキーが注目を集めています。冷却ろ過によって取り除かれる成分の中には、ウイスキー本来の風味や香り、コクといった個性を形作る重要な要素も含まれていると考えられているからです。あえて冷却ろ過を行わないことで、より豊かで複雑な味わい、より力強い香り、より濃厚なコクを引き出すことができるとされています。冷却ろ過されたウイスキーは、澄んだ見た目で滑らかな口当たりが特徴です。雑味が少なく、すっきりとした味わいを楽しむことができます。一方で、ろ過しないウイスキーは、よりワイルドで個性的な味わいが特徴です。口に含むと、冷却ろ過されたものよりも濃厚な風味と複雑な香りが広がり、より深い満足感を味わうことができます。ただし、温度変化によって白濁したり、とろみが出ることがあります。これは欠点ではなく個性であり、ろ過しないウイスキーならではの魅力と言えるでしょう。近年、お酒の多様な個性を求める人々が増え、ウイスキーにおいても、冷却ろ過しない製法への関心が高まっています。ウイスキーの奥深い世界をより深く味わいたい方は、ぜひ一度、ろ過しないウイスキーを試してみてはいかがでしょうか。きっと、新たな発見があるはずです。
日本酒

入口タンク:酒造りの清澄工程における役割

入口タンクとは、日本酒造りで欠かせない滓引きという作業専用のタンクです。滓引きとは、お酒のもとである醪(もろみ)を絞った後の、まだ濁っている生まれたてのお酒を、澄んだ美しいお酒へと変える大切な作業です。この滓引きをうまく行うために、入口タンクは酒蔵の中でも特に冷えやすい場所に置かれます。お酒造りの最後の仕上げとも言える滓引きは、とても繊細な作業です。絞りたてのお酒には、まだ米の粒などの細かい滓が含まれており、濁って見えます。この濁りをそのままにしておくと、お酒の味わいを損ない、保存中に変化してしまう原因にもなります。そこで、生まれたてのお酒を静かに入口タンクに移し、じっくりと時間をかけて滓を沈殿させます。低い温度に保つことで、お酒の鮮度を保ちながら、自然と滓が下に沈んでいくのを促すのです。入口タンクの中で静かに眠るお酒は、時間の経過とともに、上から透明な部分、真ん中はやや濁った部分、そして一番下に滓が溜まった部分と、三層に分かれていきます。熟練の杜氏は、この三層の変化を注意深く観察し、最適なタイミングを見計らって、上澄みの澄んだお酒だけを別のタンクに移します。この時、真ん中のやや濁った部分と一番下の滓は取り除かれます。こうして、雑味のない、透明感のある美しいお酒が完成するのです。入口タンクは、まさに杜氏の技と経験、そしてお酒の品質へのこだわりが詰まった、日本酒造りに欠かせない設備と言えるでしょう。