
日本酒とアル添:その歴史と現状
「アル添」とは「アルコール添加」を略した言葉で、日本酒造りの工程において、お酒のもととなる「醪(もろみ)」を搾るおよそ二日前に醸造アルコール(もしくは米焼酎)を加える製法のことです。この製法は、完成した日本酒の香りや味わい、口当たりに様々な変化をもたらすため、長らく賛否が分かれる要素となっています。具体的に見ていくと、醪に醸造アルコールを加えることで、醪の中に含まれる様々な香りの成分が、よりお酒に移りやすくなります。結果として、華やかでフルーティーな香りが際立つ仕上がりになります。また、アルコール度数が高まることで、お酒全体の味わいに軽やかさが生まれ、飲みやすくなる効果も期待できます。特に、日本酒独特の重みやコクが苦手な方にとっては、この軽快さは好ましい点と言えるでしょう。一方で、米本来の持つ旨味や深いコク、まろやかさが薄れてしまうという意見も少なくありません。醸造アルコールを加えることで、確かに華やかな香りは得られますが、同時に米の風味の奥深さや複雑さが損なわれる側面もあるのです。近年では、消費者の日本酒に対する好みも多様化し、米本来の旨味を重視する傾向が見られます。そのため、醸造アルコールを添加しない「純米酒」の人気が高まっていると言えるでしょう。この背景には、日本酒の風味に対する消費者の意識の高まりに加え、質の高い純米酒を造る技術の進歩も大きく影響しています。かつては純米酒造りは難しく、安定した品質を保つのが困難でしたが、技術革新により、現在では様々なタイプの高品質な純米酒が楽しめるようになりました。このように、日本酒を取り巻く環境は変化し続けています。