イラ湧き

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日本酒

お酒造りの難所:イラ湧きとその対策

酒造りの工程で、醪(もろみ)と呼ばれる、米と麹と水から成る仕込み液を管理する中で、醪が荒々しく湧き上がるように変化する現象を「いら湧き」と言います。これは、酒造りの初期段階で起こりうる、注意が必要な現象です。本来、醪の中では、米のデンプンを糖に変える「糖化」と、その糖をアルコールに変える「発酵」が、同時進行でバランスよく進むことが理想とされています。しかし、いら湧きが起こると、この調和が乱れてしまいます。糖が十分に作られる前に、発酵の勢いが異常に強まり、醪の温度が急激に上昇するのです。まるで、火にかけた鍋の中身が急に沸騰するように、醪の状態が不安定になります。この急激な温度上昇は、酒造りにとって様々な問題を引き起こします。まず、高温に弱い酵母がダメージを受け、本来の働きができなくなってしまいます。その結果、発酵が途中で止まってしまったり、目指す酒質とは異なるものが出来上がってしまう可能性があります。また、糖化が不十分なまま発酵が進むと、雑味や好ましくない香りが生じ、風味のバランスが崩れてしまうこともあります。繊細な味わいを求める日本酒にとって、これは大きな痛手です。このような事態を防ぐため、蔵人たちは醪の状態を常に注意深く観察し、いら湧きの兆候を見逃さないように細心の注意を払います。そして、いら湧きが起きた際には、温度を適切に管理したり、醪の成分を調整するなど、迅速な対応が必要となります。伝統的な技と経験に基づいた的確な判断と対応によって、美味しい日本酒造りは支えられているのです。