ウィスキー製造

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後溜:ウイスキーの香味を左右する影の立役者

お酒作り、中でも蒸留酒において、蒸留はなくてはならない工程です。この工程で、お酒になる液体は三つの部分に分かれます。最初に出てくる部分を初留、その次に出てくる主要な部分を中留、そして最後に出てくる部分を後留と言います。ウイスキー作りでは、単式蒸留器と呼ばれるポットスチルを用いて蒸留を行います。このポットスチルから流れ出る液体の、中留に続いて最後に出てくる部分が後留にあたります。後留には、アルコール度数が低いことに加え、熟成に適さない成分が多く含まれています。そのため、一般的には製品として瓶詰めされることはありません。しかし、この後溜にはウイスキーの風味作りにおいて、重要な役割が隠されているのです。後留には、フーゼル油と呼ばれる高沸点成分が多く含まれています。フーゼル油には独特の香りが強く、飲みすぎると頭痛や吐き気などの原因となる成分も含まれています。そのため、製品には適さない部分として扱われています。しかし、少量であれば、ウイスキーに複雑な風味や深みを与える効果があります。熟成に適さない成分が多く含まれている後留ですが、この後留を適切に処理することで、ウイスキーの個性を際立たせることができます。具体的には、次の蒸留時に初留と混ぜて再蒸留することで、後留に含まれる香味成分を回収する方法がとられています。蒸留の際に初留に後留を混ぜることで、後留に含まれる香り成分の一部が回収され、次の蒸留液に移行します。こうして得られた蒸留液は、より複雑で奥行きのある風味を持つウイスキーへと変化していきます。このように、後留は単に不要な部分として切り捨てられるのではなく、ウイスキー作りにおいて重要な役割を担っているのです。それぞれの蒸留所の製造方法によって、後留の処理方法は異なります。後留の処理方法一つで、ウイスキーの味わいは大きく変化します。後留へのこだわりこそが、ウイスキーの奥深い世界を創り出していると言えるでしょう。
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ウイスキーの香りを作る窯、キルン

お酒作りにおいて、麦芽の乾燥は風味を決める肝心な工程です。この乾燥工程で欠かせないのが、麦芽乾燥室、いわゆる「キルン」です。キルンは、石を組み上げて作られた窯のような部屋で、床にはいくつもの穴が開いています。その穴の下で火を焚き、発生した熱気をキルンの床全体に送り込みます。湿った麦芽をこのキルンの床一面に薄く広げ、下からじっくりと温風を送り込むことで、麦芽を乾燥させていきます。この乾燥工程は、単に水分を飛ばすだけではありません。お酒の風味の決め手となる大切な役割を担っているのです。乾燥の際に使われる燃料の種類や、焚き加減、乾燥にかける時間などによって、麦芽の風味は大きく変化します。例えば、ピートと呼ばれる草炭を燃料に用いると、麦芽に独特のスモーキーな香りがつきます。ピートの量や乾燥時間によって、スモーキーフレーバーの強弱を調整することが可能です。また、ピート以外の木材を燃料に用いると、また違った香りが麦芽に付きます。かつては、どのお酒の製造所にもこのキルンがありました。それぞれの製造所が、自前のキルンで麦芽を乾燥させ、独自の風味を追求していました。しかし、時代が変わり、今では大麦麦芽の精麦を行っていない製造所が増えました。そのため、キルンを持たない製造所も多くなっています。精麦とは、大麦を発芽させて乾燥させた麦芽を乾燥させる前の状態に戻す作業のことです。それでも、今もなお自社のキルンで麦芽の乾燥まで行っている製造所もあります。彼らは、昔ながらの製法を守り、燃料の種類や乾燥時間を調整することで、お酒の風味を細かく調整し、他にはない独自の個性を生み出しています。まさに、キルンは、お酒作りにおける職人技の象徴と言えるでしょう。
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連続式蒸留器:パテントスチル

お酒作りにおいて、蒸留は風味や特徴を決める大切な工程です。蒸留には、大きく分けて単式蒸留器と連続式蒸留器の二つの方法があります。それぞれに個性があり、歴史も違います。今回注目するのは、連続式蒸留器の中でも「特許蒸留器」と呼ばれるものです。この装置は、お酒作り、特に穀物のお酒作りに大きな変化をもたらした画期的な発明であり、現代のお酒作りを支える重要な柱となっています。単式蒸留器は、昔ながらの単一の釜で蒸留を行う方法です。一回の蒸留で得られるお酒は、香りが豊かで複雑な味わいが特徴です。蒸留釜の形状や加熱方法、蒸留時間など、様々な要素が風味に影響を与え、職人の技と経験が重要になります。一方、連続式蒸留器、特に特許蒸留器は、複数の蒸留塔を組み合わせることで連続的に蒸留を行うことができます。これにより、大量のお酒を効率的に生産することが可能になります。特許蒸留器は、19世紀に発明され、それまでの単式蒸留器による方法に比べて、より純粋で軽い風味のお酒を安定して作り出すことを可能にしました。特許蒸留器の内部は、多数の棚段に分けられています。蒸留する液体は上から下に流れ、下から蒸気が上がっていきます。この蒸気と液体が接触することで、アルコール分が蒸気に移り、濃縮されていきます。この工程が連続的に行われることで、高いアルコール度数のお酒を効率的に得ることができるのです。特許蒸留器によって作られるお酒は、単式蒸留器で作ったものとは異なる、すっきりとした軽やかな味わいが特徴です。穀物由来の原料の風味は控えめになりますが、様々な飲み方に合わせやすいという利点があります。また、大量生産が可能になったことで、お酒の価格が下がり、多くの人が楽しめるようになりました。特許蒸留器の発明は、お酒作りに革命をもたらし、現代のお酒文化を形作る上で大きな役割を果たしました。現代でも、特許蒸留器は様々な種類のお酒作りに活用され、世界中の人々に愛されています。
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お酒の生まれる場所:ウォッシュバック

お酒造りには欠かせない発酵槽。お酒の種類によって様々な呼び名がありますが、ここでは総称して発酵槽と呼びましょう。発酵槽とは、麦汁や米麹、水などを混ぜた「醪(もろみ)」または麦芽汁などを発酵させるための大きな桶のことです。この中で、酵母が糖分を分解し、アルコールと炭酸ガスを作り出します。まるで酵母が魔法をかけるように、お酒の独特の風味が生まれる、まさに生命の息吹が感じられる空間と言えるでしょう。この発酵槽の材質や形状、大きさによって、お酒の個性は大きく左右されます。例えば、木でできた発酵槽は、木の香りがお酒に移り、独特の風味を醸し出します。一方、金属製の発酵槽は温度管理がしやすく、雑菌の繁殖を抑えるのに優れています。それぞれの材質によって、生まれるお酒の性格が変わるのです。まさに、お酒のゆりかごと言えるでしょう。発酵槽での作業は、ただ材料を入れて待つだけではありません。適切な温度管理が非常に重要です。酵母は生き物なので、活発に活動できる温度帯が決まっています。温度が低すぎると発酵が進まず、高すぎると酵母が死んでしまいます。そのため、常に発酵槽内の温度を細かく調整する必要があります。さらに、衛生管理も大切です。雑菌が繁殖すると、お酒の味が損なわれたり、腐敗してしまう可能性があります。発酵槽は常に清潔に保ち、雑菌の侵入を防ぐ必要があります。そして、発酵の進み具合を見極めるのも職人の腕の見せ所です。発酵期間は、お酒の種類によって大きく異なり、数日から数週間、長いものだと数ヶ月かかる場合もあります。発酵が進むにつれて、醪の色や泡立ち、香りが変化していきます。熟練の職人は、五感を研ぎ澄まし、長年の経験と知識に基づいて、発酵の状態を注意深く観察します。そして、最適なタイミングで発酵を止め、最高の状態のお酒へと導くのです。まさに、この繊細な作業こそが、高品質なお酒を生み出す秘訣と言えるでしょう。
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ウイスキーの余韻:スペントリースの活用

麦芽の甘やかな香りと樽でじっくりと熟成された芳醇な香り、これこそがウイスキーの魅力です。しかし、ウイスキーが生まれる華やかな舞台の裏側には、あまり光が当たらない存在があります。それは蒸留を終えた後にスチルと呼ばれる蒸留器に残る液体、「スペントリース」です。二回目の蒸留を終え、琥珀色の液体、ウイスキーが取り出された後、スチルの中に残るのは、茶褐色の液体です。一見すると、ウイスキー造りの過程で生じた単なる残り物、廃液のように思われるかもしれません。しかし、このスペントリースはウイスキーの製造過程で培われた様々な成分を含んでおり、実は多くの可能性を秘めているのです。スペントリースには、タンパク質や糖分、繊維質、ミネラルなど、麦芽由来の栄養分が豊富に含まれています。ウイスキーの深い味わいを生み出す過程で生まれたこの副産物は、単なる廃棄物として扱われるには惜しい、まさに宝の山と言えるでしょう。そこで近年注目されているのが、このスペントリースを土壌改良剤として活用する方法です。スペントリースを土壌に散布することで、土壌の保水力や通気性が向上し、作物の生育を促進する効果が期待できます。また、スペントリースに含まれる栄養分は、土壌中の微生物の活動を活発化させ、健全な土壌環境を育むことにも繋がります。ウイスキーの余韻が大地に染み渡るように、スペントリースは土壌改良剤という新たな価値を、自然の恵みを再び自然へと還元する、循環型の社会に貢献しているのです。ウイスキー造りで培われた知恵と工夫、そして環境への配慮。ウイスキーの製造過程で生まれた副産物を有効活用することで、持続可能な社会の実現に貢献する。まさにスペントリースは、サステナビリティの象徴と言えるでしょう。
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ウイスキー職人:スチルマンの技

お酒作りの中でも、蒸留という工程は、ウイスキーの味わいを決める中心的な作業と言えます。ウイスキーの製造において、蒸留は心臓部とも呼べる重要な工程です。この蒸留作業を担う職人を、蒸留釜の職人という意味で釜屋と呼びます。彼らはただ作業をこなすだけではありません。ウイスキーの香りや風味、独特の個性を作り出す、言わば芸術家のような存在です。釜屋は長年培ってきた経験と深い知識、そして研ぎ澄まされた五感を使って、巨大な蒸留釜をまるで魔法の道具のように操ります。蒸留釜の加熱方法や冷却の調整、蒸留にかける時間など、一つ一つの工程を緻密に管理することで、釜屋はウイスキーの風味を調整し、最終的な製品の品質を左右するのです。原酒となるもろみを発酵させた後、この蒸留釜で加熱することで、アルコールと香味成分が気化し、それを冷却することで液体に戻し、ウイスキーの原酒が作られます。蒸留は、一度の作業で終わるものではありません。釜屋は、蒸留の過程で発生する香味成分の変化を注意深く観察し、何度も蒸留を繰り返すことで、目指すウイスキーの個性を引き出していきます。一度目の蒸留では、アルコール度数を高めると同時に、不要な成分を取り除きます。二度目の蒸留では、さらに香味成分を凝縮させ、ウイスキーの骨格となる風味を形成します。この複雑な工程を正確に、かつ繊細にコントロールするのが釜屋の腕の見せ所です。まさに蒸留所の心臓部を動かす、ウイスキー造りの要と言えるでしょう。釜屋の長年の経験と勘、そして情熱が注ぎ込まれたウイスキーは、唯一無二の味わいを生み出すのです。
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麦芽の秘密:モルティングの世界

ビール造りにおいて、麦芽は風味や色の土台となる欠かせないものです。この麦芽は、大麦から作られますが、その工程は幾つもの段階を踏む複雑なものです。大麦を麦芽へと変える作業、それが「麦芽製造」です。麦芽製造は、ビールの魂を育む魔法のような作業と言えるでしょう。今回は、この不思議な麦芽製造の世界を深く探り、その魅力を解き明かしていきます。麦芽製造は、大きく分けて三つの段階に分かれています。まず最初の段階は「浸麦」です。大麦を水に浸し、発芽を促します。この時、水分の吸収と共に、大麦の中で酵素が活性化し始めます。この酵素こそが、後の糖化工程で重要な役割を果たすのです。適切な水分量と温度管理が、質の高い麦芽を生み出す鍵となります。次に「発芽」の段階へと進みます。水に浸された大麦は、芽を出し始めます。この過程で、大麦に含まれる酵素がさらに活性化し、でんぷんを糖に変える準備が整います。温度と湿度の管理を徹底することで、酵素の働きを最大限に引き出します。最後に「乾燥」の段階です。発芽した大麦を乾燥させ、成長を止めます。この乾燥工程で、麦芽の色や香りが決定されます。乾燥温度や時間によって、様々な種類の麦芽が生まれるのです。低い温度でじっくり乾燥させると、淡い色の麦芽が、高い温度で乾燥させると、濃い色の麦芽が生まれます。こうして出来上がった麦芽は、ビール造りの要となる、糖分を豊富に含んだ状態になります。麦芽製造は、まさにビール造りの最初の、そして最も重要な一歩と言えるでしょう。ビールの種類によって、様々な麦芽が使い分けられます。淡い色のビールには淡い色の麦芽、濃い色のビールには濃い色の麦芽が使われます。また、香りや風味付けのために、特殊な麦芽が加えられることもあります。ビールを飲む際には、この麦芽製造の奥深さを思い浮かべ、その味わいをじっくりと楽しんでみてはいかがでしょうか。ビールの世界が、より一層広がることでしょう。