クレームドカシス

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カクテル

キール:爽やかで華やかな食前酒

第二次世界大戦後のフランス、ブルゴーニュ地方の中心都市ディジョンは、地元の特産品である白ワインとクレーム・ド・カシスの消費拡大に頭を悩ませていました。戦後の復興の中で、これらの特産品をどのようにアピールしていくかが課題だったのです。そんな中、当時のディジョン市長、フェリックス・キール氏が画期的なアイデアを思いつきます。それは、白ワインとクレーム・ド・カシスを混ぜ合わせた新しい飲み物を作り、広く普及させることでした。市長自ら考案したこの飲み物は、地元産の辛口の白ワインに、同じく地元産の甘酸っぱいクレーム・ド・カシスを少量加えるというシンプルなものでした。白ワインの爽やかな風味とクレーム・ド・カシスの深いコクが絶妙に調和し、見た目にも美しい淡いピンク色に仕上がります。この新しい飲み物は、考案者である市長の名前をとって「キール」と名付けられました。キール市長は、公式の場や様々な行事で自らキールを振る舞い、その魅力を人々に伝えました。市長自らが推奨する飲み物ということもあり、キールは瞬く間にディジョン市民の間で人気となり、やがてブルゴーニュ地方全体へと広まっていきました。地元の生産物を組み合わせることで新たな価値を生み出したキールは、ディジョン市の象徴的な存在として広く知られるようになりました。そして、キールの人気はフランス国内にとどまらず、世界中へと広がっていきました。シンプルなレシピで誰にでも簡単に作れること、そして何よりその爽やかな味わいが、多くの人々の心を掴んだのです。今では世界中のバーやレストランで提供され、食前酒として、あるいはパーティーの乾杯の席などで楽しまれています。キールは、地元の特産品を活かした地域振興の成功例として、また、世界中で愛されるカクテルの誕生物語として、語り継がれています。