トランスグルコシダーゼ

記事数:(1)

日本酒

お酒の甘味を操る酵素: トランスグルコシダーゼ

お酒造りにおいて、原料のでんぷんを酵母が利用できる糖に変換する過程は、いわば家の土台を築くような、非常に大切な工程です。この変換作業を担うのが酵素です。酵素は、まるで小さな職人たちが集まり、それぞれの持ち場で役割を分担しているかのように、複雑な工程を巧みに進めていきます。まず、でんぷんという大きなかたまりを、細かく砕く役割を担うのが、α-アミラーゼという酵素です。α-アミラーゼは、でんぷんを切断することで、より小さな糖の鎖であるオリゴ糖を作り出します。しかし、α-アミラーゼの働きだけでは、酵母が好む糖であるぶどう糖は十分に生成されません。そこで、トランスグルコシダーゼという名の酵素が登場します。トランスグルコシダーゼは、α-アミラーゼが作り出したオリゴ糖に作用し、糖の鎖を組み替えるという、特別な力を持っています。まるで、熟練の指物師が木材を組み合わせて精巧な家具を作るように、トランスグルコシダーゼはオリゴ糖からぶどう糖を切り離し、それを別のオリゴ糖に繋ぎ合わせます。この緻密な作業によって、様々な種類のオリゴ糖が新たに生成され、お酒の甘味、風味、後味といった、お酒の個性を決定づける重要な要素に大きな影響を与えます。このように、酵素の働きによって、原料のでんぷんから酵母が利用しやすい糖が作られます。そして、この糖を酵母が食べ、アルコール発酵を進めることで、初めてお酒が出来上がります。いわば酵素は、お酒造りの土台を築く、無くてはならない存在と言えるでしょう。