ドイツ

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スピリッツ

コルン:ドイツの無香料蒸留酒

{お酒の世界は奥深く、多種多様なお酒が存在します。その中でも、麦芽を使った蒸留酒といえば、ウイスキーや焼酎などを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、世界には麦芽以外の穀物から造られる個性豊かな蒸留酒も数多く存在します。今回ご紹介するのは、ドイツの伝統的な蒸留酒である「コルン」です。日本ではあまり知られていませんが、ドイツでは広く親しまれているお酒です。コルンは、ライ麦を主原料とした蒸留酒で、その名前はドイツ語で「穀物」を意味します。大麦麦芽を原料とするウイスキーとは異なり、コルンはライ麦の豊かな風味と、軽やかで飲みやすい口当たりが特徴です。また、樫樽で熟成させないため、無色透明な見た目も特徴の一つです。熟成による木の香りが加わらない分、ライ麦本来のピュアな味わいをストレートに楽しむことができます。コルンの製法は、まずライ麦を粉砕し、温水と混ぜて糖化させます。その後、酵母を加えて発酵させ、アルコール発酵によって生まれた醪(もろみ)を蒸留します。蒸留したコルンは、その後、濾過され、瓶詰めされます。コルンのアルコール度数は一般的に32度から40度で、そのままストレートで飲むのはもちろん、カクテルのベースとしても楽しむことができます。特に、ソーダやトニックウォーターで割って飲むのがおすすめです。爽快な喉越しと、ライ麦のほのかな甘みが絶妙に調和し、暑い時期にもぴったりの一杯となります。あまり馴染みのないお酒かもしれませんが、この記事を通してコルンの魅力を発見し、新しいお酒との出会いを楽しんでいただけたら嬉しいです。すっきりとした飲み口と、穀物由来の自然な甘み、そして奥深い味わいは、きっとあなたの心を掴むことでしょう。ぜひ一度、コルンを味わってみてください。
その他

フッチェンロイター:陶磁器の歴史と魅力

時は1814年、ドイツにてフッチェンロイターは産声を上げました。その当時、磁器を作る窯を持つことは王家のみが許された特権であり、一般の者が磁器を作るなど思いもよらない時代でした。磁器の絵付け師として活躍していたカルル・マグヌス・フッチェンロイターは、熱い情熱を胸に秘めていました。自らの手で磁器を作りたい、その一心で技術を磨き、研鑽を積み重ねてきました。しかし、王家の独占事業である磁器製造に民間人が参入することは容易ではありませんでした。それでも諦めることなく、フッチェンロイターは自らの技術と情熱を証明するために精魂込めて作品を作り続けました。その情熱と類まれなる技術は、ついにバイエルン国王の心を動かしたのです。国王はフッチェンロイターの並々ならぬ熱意と才能を認め、王家以外で初めて磁器窯を開く許可を与えました。これは当時としては画期的な出来事であり、ドイツにおける民間企業による磁器製造の幕開けとなりました。フッチェンロイターの揺るぎない情熱とたゆまぬ努力が、王室の壁を打ち破り、新たな時代を切り開いたのです。フッチェンロイターの歴史は、まさに王の心を動かした情熱と技術の結晶として、ここから始まりました。脈々と受け継がれるその精神は、今もなお、フッチェンロイターの製品に息づいています。
ブランデー

さくらんぼの贈り物:キルシュワッサーの世界

さくらんぼを原料としたお酒といえば、キルシュワッサーが頭に浮かびます。名前の由来は、ドイツ語でさくらんぼを意味する「キルシュ」と水を意味する「ワッサー」を組み合わせたもので、まさにその名のとおり、さくらんぼの味わいが詰まったお酒です。キルシュワッサーの製造工程は、まず厳選されたさくらんぼを丁寧に潰し、果汁を取り出すことから始まります。この果汁には、さくらんぼの甘みと独特の香りが凝縮されています。次に、この果汁をじっくりと時間をかけて発酵させます。発酵によって果汁の中の糖分がアルコールへと変わり、お酒のベースが作られます。そして、発酵を終えた原酒を蒸留器にかけ、丁寧に蒸留することで、無色透明で純粋なキルシュワッサーが生まれます。蒸留によって、さくらんぼの繊細な風味と香りがさらに際立ち、雑味が取り除かれた澄んだ味わいとなります。グラスに注がれたキルシュワッサーは無色透明で、一見すると水と見間違えるほどです。しかし、ひとたび口に含むと、さくらんぼ特有の爽やかな甘みと芳醇な香りが口いっぱいに広がります。まるで、さくらんぼの実をそのまま味わっているかのような錯覚に陥るほど、豊かで繊細な味わいが特徴です。ストレートで楽しむのはもちろんのこと、カクテルの材料としても広く使われています。お菓子作りにも活用でき、焼き菓子やチョコレートなどに加えることで、風味を豊かにし、より一層味わい深い仕上がりになります。ほんのりとしたさくらんぼの香りが、大人のデザートタイムを演出してくれるでしょう。
ビール

ビールを変えた冷凍技術

19世紀後半、ドイツの技術者カール・フォン・リンデによって、画期的な冷凍機が発明されました。それまでの氷を作る技術は、冬の寒い時期に自然にできた氷を貯蔵しておき、必要な時に使うという方法が主流でした。しかし、この方法は天候に左右されるため、安定した氷の供給は難しく、特に夏場は深刻な不足に陥っていました。リンデが発明した冷凍機は、1日に6トンもの氷を人工的に作り出すことができました。これは、当時の人々にとって驚異的な量であり、まさに革命的な発明でした。この画期的な冷凍技術の誕生は、様々な産業に大きな影響を与えましたが、特にビール造りの世界に劇的な変化をもたらしました。それまでのビール造りは、気温が低い冬にしか行えないものでした。それは、ビール造りに欠かせない酵母が、高い温度ではうまく働かず、質の良いビールを安定して造ることが難しかったからです。夏場に造られたビールは、味が変わりやすく、腐敗してしまうことも少なくありませんでした。そのため、人々は冬の間に造られたビールを大切に保管し、夏の間は少量ずつ大切に飲むのが一般的でした。リンデの冷凍機が登場したことで、醸造所では一年を通して温度管理が可能になりました。酵母にとって最適な低い温度を一年中保てるようになったことで、季節に関係なく、いつでも質の良いビールを安定して造ることができるようになったのです。これはビール造りの歴史における大きな転換期であり、ビールの味と品質を飛躍的に向上させただけでなく、ビールをいつでも楽しめるようになったことで、人々の生活にも大きな変化をもたらしました。リンデの冷凍機は、まさに氷と冷たさの世界に革命を起こし、現代社会の礎を築いた偉大な発明と言えるでしょう。
ビール

世界最大のビール祭り!オクトーバーフェスト

秋風爽やかな九月、ドイツのミュンヘンでは世界最大規模のビールの祭典、オクトーバーフェストが開催されます。華やかな衣装をまとった人々、陽気な音楽、そして黄金色に輝くビール。世界中から集まった人々の笑顔が街にあふれます。この賑やかなお祭りは、実は今から二百年以上も前、1810年に始まりました。その起源は、バイエルン王国の皇太子ルートヴィヒ1世とザクセン=ヒルトブルクハウゼン公国のテレーゼ王女の結婚式を祝う祝宴でした。ミュンヘンの街外れの草原、テレージエンヴィーゼで盛大に催されたこの祝宴は、競馬などの催し物で賑わい、多くの市民が参加して大いに盛り上がりました。特に、人々を熱狂させたのはその祝宴の雰囲気でした。美味しい料理、華やかな衣装、そして皆で分かち合う喜び。この素晴らしい祝宴を毎年体験したいという市民の声を受け、翌年以降も開催されることになったのです。当初は競馬が中心でしたが、時代が進むにつれてビールの重要性が増していき、やがてオクトーバーフェストは世界的に有名なビール祭りへと進化を遂げました。今では世界中から毎年六百万人を超える人々がミュンヘンを訪れ、特設会場に設置された巨大なビールテントで、バイエルン地方の伝統的な音楽と共に、ジョッキに注がれた黄金色のビールを味わいます。オクトーバーフェストは単なるビール祭りではありません。それは、人々が喜びを分かち合い、歌い、踊り、心を通わせる大切な場です。二百年以上もの歴史の中で、時代に合わせて変化を遂げながらも、人々を魅了し続けるその魅力は、祝宴の原点にある、人と人との繋がりを大切にする精神なのかもしれません。賑やかな音楽と笑い声、そして黄金色のビールが彩るこの祭典は、これからも世界中の人々を魅了し続けることでしょう。
その他

ニュンフェンブルグ:貴族の品格

今からおよそ二百七十年前、一七四三年、ドイツはバイエルン地方に、のちに世界に名を馳せるニュンフェンブルグ磁器工房が誕生しました。その始まりは、バイエルン選帝侯、マクシミリアン三世の熱い思いからでした。当時、磁器は東洋から輸入される大変貴重な品であり、ヨーロッパでは限られた場所でしか作られていませんでした。その製造方法は門外不出の秘伝とされ、各国がその技術の習得にしのぎを削っていました。マクシミリアン三世もまた、自国での磁器生産を夢見て、その実現に情熱を注ぎました。マクシミリアン三世は、ウィーンの窯で磁器作りの秘伝を学んだヨーゼフ・ヤーコプ・リングラーという人物を招き入れました。リングラーは、選帝侯の期待を一身に背負い、磁器作りの研究に没頭しました。しかし、磁器作りは容易ではありませんでした。原料の調合、成形、焼成、釉薬の調合など、あらゆる工程で試行錯誤が繰り返されました。幾度となく失敗を繰り返し、それでも諦めることなく、リングラーは研究を続けました。そしてついに、一七五三年、ついに純白で美しい磁器を作り出すことに成功したのです。実に十年にも及ぶ歳月をかけた、執念の賜物でした。この偉業は、マクシミリアン三世の悲願達成であり、ニュンフェンブルグ磁器工房の輝かしい歴史の始まりでもありました。リングラーが作り出した純白の磁器は、ニュンフェンブルグの象徴となり、その名は瞬く間にヨーロッパ中に広まりました。その後も、ニュンフェンブルグ磁器工房は、優れた職人たちの手によって、様々な形の美しい磁器を生み出し続けました。花や人物をかたどったもの、鮮やかな色彩で絵付けされたものなど、その作品はどれも芸術性が高く、王侯貴族たちを魅了しました。二百七十年の時を経た今もなお、ニュンフェンブルグ磁器工房は、世界最高峰の磁器工房として、その伝統を守り、美しい磁器を作り続けています。
ビール

ドルトムンダー:淡色の爽快な下面発酵ビール

ドルトムンダーは、その名の通りドイツのドルトムント市で生まれた下面発酵のビールです。19世紀半ば、ドイツでは冷蔵技術の発達とともに、低温でじっくりと発酵させる下面発酵ビールの人気が爆発的に高まりました。下面発酵ビールの中でも、特に黄金色に輝くピルスナーは、当時のビールを好む人々を虜にしました。そうした中、ドルトムントの醸造家たちも、この流行に乗り遅れまいと、ピルスナーを参考に、淡色の下面発酵ビールの開発に熱心に取り組み始めました。こうして試行錯誤の末に生まれたのが、黄金色の外観と、程よい苦味と麦の風味のバランスがとれた飲みやすいドルトムンダーです。ドルトムンダーは、地元の人々に瞬く間に受け入れられ、その名はたちまちドイツ中に広まりました。20世紀初頭には、ドルトムントには120以上の醸造所がひしめき合い、ドイツ最大のビール生産都市として大いに栄えました。当時のドルトムントは、ルール工業地帯の中心地として目覚ましい発展を遂げ、多くの労働者たちが集まっていました。活気あふれる経済発展を背景に、そこで働く人々の喉を潤すビールへの需要はますます高まり、ドルトムンダーはその需要に応えるように大量に生産され、人々に愛飲されました。ドルトムンダーは、まさにこの街の活力を象徴するビールと言えるでしょう。今日でも、ドルトムンダーはドイツを代表するビールの一つとして、世界中で親しまれています。そのすっきりとした飲み口と爽やかな味わいは、どんな料理にもよく合い、多くの人々を魅了し続けています。
ビール

芳醇なドッペルボックの世界

深く複雑な味わいと芳醇な香りを誇る、どぶろくにも似た濃厚な上面発酵ビール、ドッペルボック。その起源は、17世紀のドイツ、ミュンヘン近郊にある聖フランシスコ・パオラ修道院に遡ります。厳格な断食期間中、修道士たちは固形物を口にすることを禁じられていました。しかし、栄養を全く摂取せずに長期間の断食に耐えることは困難です。そこで彼らは、麦芽を用いた飲み物を作り、必要な栄養とカロリーを摂取する方法を編み出しました。これがドッペルボックの始まりです。当時の修道士たちは、この栄養価の高い飲み物を「液体のパン」と呼び、厳しい断食期間中の貴重な栄養源としていました。麦芽を糖化させることで生まれる糖分は、効率的にエネルギーへと変換されます。まさに、信仰の道を歩む彼らの生活を支える、まさに命の水だったと言えるでしょう。ドッペルボックの特徴は、その濃厚な味わいと高いアルコール度数、そして深い色合いにあります。これは、原料となる麦芽の使用量が多いこと、そして低温で長時間発酵させることに起因します。焙煎された麦芽を使用することで、独特の香ばしさとカラメルのような風味が生まれます。かつては修道院内だけで醸造されていたこの特別な飲み物は、その評判が広まるにつれて次第に修道院の外へと伝わり、一般にも楽しまれるようになりました。今日では、世界中の醸造所で様々な種類のドッペルボックが作られています。その製法は時代と共に進化を遂げながらも、伝統的な醸造技術と精神は脈々と受け継がれています。かつて修道士たちの祈りと共に醸造されたこの特別な飲み物は、今もなお、世界中の人々を魅了し続けています。
ビール

小麦ビールの魅力:白く輝く爽快な一杯

黄金色に輝く一杯、小麦ビール。その名の通り、原料に小麦を用いることで、大麦を用いたビールとは異なる独特の個性を持つ飲み物です。小麦特有の柔らかな甘みと、ほのかに感じる酸味、そしてきめ細やかな泡。喉を滑り落ちていく時の爽快感は、まさに夏の太陽の下で飲むのに最適です。小麦の歴史は古く、人類が文明を築き始めた頃まで遡ります。パンや麺類など、様々な形で人々の食卓を支えてきた小麦ですが、ビールにも古くから使われてきました。特に小麦ビールが盛んに作られたのはヨーロッパ。その爽やかな味わいは多くの人々に愛され、長い歴史の中で独自の文化を育んできました。しかし、小麦ビールの歴史は常に順風満帆だったわけではありません。16世紀頃、ヨーロッパを襲った飢饉。人々は深刻な食糧不足に苦しみ、貴重な小麦はパンを作るために優先的に使われることになりました。ビール作りに小麦を使う余裕はなく、小麦ビールの製造は禁じられてしまったのです。それほどまでに、小麦は人々の生活に欠かせない存在であり、小麦ビールは贅沢品と見なされていたことがわかります。厳しい時代を乗り越え、現代では再び小麦ビールは広く楽しまれるようになりました。様々な種類の小麦ビールが世界中で作られており、ビール愛好家たちの心を掴んでいます。今では気軽に飲むことができる小麦ビールですが、その歴史に思いを馳せると、一杯のビールの重みと、小麦という恵みの尊さを改めて感じることができるでしょう。
ビール

職人組合ツンフト:中世のビール醸造

中世ヨーロッパ、とりわけドイツ語圏で『ツンフト』と呼ばれた職人組合をご存知でしょうか。これは現代の組合の起源とも言える組織で、15世紀頃にその姿を現しました。誕生の舞台は、修道院です。修道院は当時、人々の信仰の中心であると同時に、ビール醸造の中心地でもありました。人々の生活に欠かせないビールは、修道士たちによって丹念に醸造され、その技術は脈々と受け継がれてきました。ツンフトはそんな修道院の中で、修道院の建設に携わる職人たちによって作られました。ツンフトは、キリスト教の教えに基づく社会奉仕と相互扶助の精神を基盤としていました。単なる技術集団ではなく、互いに助け合い、技術の向上に励み、社会に貢献することを目的としていました。組合員たちは、困っている仲間がいれば助け合い、病気や怪我をしたときには支え合いました。また、未熟な職人には熟練の職人が技術指導を行い、全体の技術水準の向上に努めました。初期のツンフトは、石工や大工といった修道院の建設に携わる職人たちが中心でした。彼らは、修道院建設という共通の目的のもと、互いの技術を尊重し、協力し合うことで、壮大な建築物を作り上げていきました。その後、ツンフトは次第に様々な職種の職人を受け入れるようになり、仕立て屋、靴職人、パン職人など、多種多様な職人が参加するようになりました。そしてもちろん、修道院でビールを醸造する職人たちもツンフトに加入し、その活動の中心的な役割を担うようになっていったのです。現代社会における様々な組合も、このツンフトの精神を受け継いでいると言えるでしょう。
スピリッツ

北欧の魂 アクアビットの世界

凍てつく大地、北国で古くから愛されてきた蒸留酒、アクアビット。その名は命の水を意味する言葉に由来を持ち、まさに厳しい自然の中で人々の暮らしを支え、心を温めてきたと言えるでしょう。アクアビットの主原料は、北の大地で力強く育つじゃがいもです。他に麦なども用いられます。じゃがいもからアクアビットが生まれるまでには、いくつかの工程が必要です。まず、じゃがいもに含まれるでんぷんを糖に変える糖化作業を行います。次に、この糖を酵母によってアルコール発酵させ、もろみを作ります。最後に、このもろみを蒸留することで、無色透明の蒸留酒が得られます。こうして生まれたアクアビットは、すっきりとしたのど越しと、ほのかな甘みが特徴です。じゃがいも由来の柔らかな風味も感じられ、北国の料理との相性も抜群です。魚介類を使った料理や、肉料理など、様々な料理を引き立て、食卓を彩ります。アクアビットは、北国の人々の生活に深く根ざし、様々な場面で楽しまれてきました。お祝いの席や家族で集まる時など、人々の喜びや悲しみを分かち合う、なくてはならない存在です。また、寒い冬には体を温めるためにも飲まれてきました。人々は囲炉裏を囲み、温かいアクアビットを飲みながら、長い冬を乗り越えてきたのです。アクアビットは、単なるお酒ではなく、北国の風土と歴史、そして人々の心意気を映し出す、まさに文化そのものと言えるでしょう。一口飲むごとに、北の大地の息吹を感じ、その奥深い魅力に惹きつけられるはずです。まるで、静かに燃える炎のように、心を温め、力強く生きる勇気を与えてくれる、そんな特別な蒸留酒です。
ビール

アインベック・ビール:中世ハンザの黄金時代

ハンザ同盟は、中世ヨーロッパ、おおよそ13世紀から17世紀にかけて、北ドイツの都市を中心に結成された商業同盟です。バルト海沿岸から北海沿岸地域まで広大なつながりを持ち、交易を通して大きな力を持っていました。この同盟において、ビールは主要な売り買いの品の一つであり、同盟都市の暮らしを支える重要な役割を担っていました。当時のヨーロッパでは、安全な飲み水が不足していたため、ビールは老若男女問わず日常的に飲まれていました。保存性の高いビールは長距離の輸送にも耐えることができ、各地で高い需要がありました。ハンザ同盟の交易路を通して、様々な種類のビールが各地に運ばれ、人々の生活に豊かさをもたらしました。例えば、北ドイツの都市リューベックで造られた濃い色のビールは、遠くイギリスやスカンディナビア半島にまで運ばれ、人気を博していました。ハンザ同盟の活発な交易活動は、ビールの醸造技術の向上にもつながりました。各地の醸造所は、より美味しいビールを造るために技術を競い合い、切磋琢磨しました。また、異なる地域間での原料や製法の交流も盛んに行われ、それぞれの土地で独自のビール文化が花開きました。例えば、ドイツの下面発酵ビールの技術は、ハンザ同盟の交易網を通じてヨーロッパ各地に広まり、様々なビールの醸造に影響を与えました。ハンザ同盟は単なる商業同盟にとどまらず、共通の規格やルールを定めることで、商品の品質管理にも貢献しました。ビールについても一定の品質基準が設けられ、消費者は安心してビールを購入することができました。このような品質管理の徹底は、ビールの信頼性を高め、さらなる需要拡大につながりました。ハンザ同盟の影響力は、ビールの歴史を語る上で欠かせない要素であり、現代のビール文化にもその名残を見つけることができます。ハンザ同盟が築き上げた交易網と品質管理の仕組みは、その後のビール産業の発展に大きな影響を与え、現代の多様なビール文化の礎を築いたと言えるでしょう。
ビール

ラガービール:じっくり熟成、深みのある味わい

「貯蔵」や「熟成」を意味するドイツ語に由来する「ラガー」は、その名のとおり、低温でじっくりと熟成させる製法が特徴のビールです。ビール作りには、上面で活動する酵母と下面で活動する酵母の二種類がありますが、ラガービールには必ず下面発酵酵母が使われます。この酵母は、低い温度でゆっくりと活動するため、発酵に時間がかかります。しかし、このじっくりとした発酵こそが、ラガービール独特の風味の鍵となります。下面発酵酵母は、発酵の過程で様々な香気成分を作り出し、ラガービール特有の奥深い味わいを生み出します。ラガービールのもう一つの大きな特徴は、長い熟成期間です。発酵が終わった後も、低温でじっくりと時間をかけ、ビールを熟成させます。この熟成期間中に、ビールに含まれる様々な成分が複雑に変化し、まろやかで雑味のない、洗練された味わいへと変化していきます。まるで熟成されたチーズやワインのように、時間をかけることで角が取れ、まろやかな風味に仕上がっていくのです。この熟成期間の長さが、ラガービールのすっきりとした飲み口と豊かな風味を両立させている秘訣です。一般的な上面発酵酵母を使ったビールは、比較的短い期間で発酵と熟成を終えることができます。しかし、ラガービールは、低温での発酵と長期熟成という、時間と手間のかかる製法を経て、ようやく完成します。だからこそ、ラガービールは、職人の技と情熱が注ぎ込まれた、こだわりのビールと呼ぶにふさわしいと言えるでしょう。丹精を込めて作られたラガービールは、他のビールとは一線を画す、格別な味わいを提供してくれます。黄金色の輝きと、きめ細やかな泡、そして、喉を通る時の爽快感。ラガービールの魅力は、一度味わうと忘れられない、特別な体験となるでしょう。
飲み方

三度注ぎで変わるビールの味

ビールをグラスに注ぐのは、ただ中身を移すだけではありません。注ぎ方によって、泡立ち具合や炭酸の量、ひひいては味や香りが大きく変わる繊細な作業です。一口にビールの注ぎ方といっても様々な流儀がありますが、今回は、ビール好きの間で話題の「三度注ぎ」という方法を詳しくご紹介します。一見、手間がかかるように思えるかもしれませんが、三度注ぎはビール本来の持ち味を最大限に引き出す、まさに熟練の技とも言える注ぎ方なのです。まず最初は、グラスを傾けずに勢いよくビールを注ぎます。グラスの底に勢いよくビールを当てることで、炭酸ガスを多く含んだきめ細かい泡が作られます。この泡は、ビールの酸化を防ぎ、香りをグラスに閉じ込める役割を果たします。この最初の注ぎで、グラスの半分から七割ほどまで満たします。勢いよく注ぐとはいえ、グラスからビールが溢れないように注意が必要です。次に、泡が落ち着いてきたら、グラスを少し傾け、静かにビールを注ぎます。今度は、泡を壊さないように、ゆっくりと注ぐのがポイントです。グラスの八割ほどまで注いだら、一旦注ぐのを止めます。最後に、泡が落ち着くのを待ってから、こんもりとした泡の層を作るように、グラスの中心に静かにビールを注ぎます。理想的な泡の高さは、三センチ程度と言われています。きめ細かくクリーミーな泡の層は、ビールの美味しさを閉じ込め、見た目にも美しく、飲む人の心を高揚させます。このように、三段階に分けて注ぐことで、ビールの風味を最大限に楽しむことができます。少しの手間で、いつものビールが格段に美味しくなりますので、ぜひ一度お試しください。ビールの種類やグラスの形によっても最適な注ぎ方は変わってきますので、いろいろと試して、自分好みの注ぎ方を見つけるのもビールの楽しみ方のひとつです。
スピリッツ

シュタイン・ヘーガー:穏やかな香りのジン

シュタイン・ヘーガー。その名はドイツ西部の小さな町、シュタインハーゲンに由来します。この町は、古くから良質な穀物と清らかな水が豊富に採れる地域として知られ、人々は自然の恵みを生かして様々な酒造りを行ってきました。その中でも特に名を馳せたのが、このシュタイン・ヘーガーという蒸留酒です。その起源は、今よりずっと昔、町の歴史に深く根付いています。シュタインハーゲンで作られるジンは、他の地域のものとは一線を画す独特の製法を守り続けています。厳選された穀物を丁寧に仕込み、伝統的な蒸留器でじっくりと時間をかけて蒸留することで、雑味のない澄んだ味わいが生まれます。そして、この蒸留酒の最大の特徴とも言えるのが、地元で採れる様々な香味植物の使用です。ジュニパーベリーはもちろんのこと、この地方特有のハーブや果実、種子などを独自の配合で加えることで、シュタイン・ヘーガー特有の穏やかで複雑な香りが生まれます。これらの香味植物は、代々受け継がれてきた秘伝のレシピに基づき、厳選され、丁寧に処理された後、蒸留酒に絶妙なバランスで配合されます。かつては小さな町で作られる地方の酒であったシュタイン・ヘーガーは、その深い味わいと芳醇な香りで徐々に評判を呼び、次第に多くの人々を魅了していきました。そして今や、シュタイン・ヘーガーはドイツを代表する蒸留酒の一つとして、世界中で愛飲されています。その名は、まさにシュタインハーゲンの誇りであり、この町の豊かな自然と人々の情熱が生み出した、まさに傑作と言えるでしょう。