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ビール

芳醇なドッペルボックの世界

深く複雑な味わいと芳醇な香りを誇る、どぶろくにも似た濃厚な上面発酵ビール、ドッペルボック。その起源は、17世紀のドイツ、ミュンヘン近郊にある聖フランシスコ・パオラ修道院に遡ります。厳格な断食期間中、修道士たちは固形物を口にすることを禁じられていました。しかし、栄養を全く摂取せずに長期間の断食に耐えることは困難です。そこで彼らは、麦芽を用いた飲み物を作り、必要な栄養とカロリーを摂取する方法を編み出しました。これがドッペルボックの始まりです。当時の修道士たちは、この栄養価の高い飲み物を「液体のパン」と呼び、厳しい断食期間中の貴重な栄養源としていました。麦芽を糖化させることで生まれる糖分は、効率的にエネルギーへと変換されます。まさに、信仰の道を歩む彼らの生活を支える、まさに命の水だったと言えるでしょう。ドッペルボックの特徴は、その濃厚な味わいと高いアルコール度数、そして深い色合いにあります。これは、原料となる麦芽の使用量が多いこと、そして低温で長時間発酵させることに起因します。焙煎された麦芽を使用することで、独特の香ばしさとカラメルのような風味が生まれます。かつては修道院内だけで醸造されていたこの特別な飲み物は、その評判が広まるにつれて次第に修道院の外へと伝わり、一般にも楽しまれるようになりました。今日では、世界中の醸造所で様々な種類のドッペルボックが作られています。その製法は時代と共に進化を遂げながらも、伝統的な醸造技術と精神は脈々と受け継がれています。かつて修道士たちの祈りと共に醸造されたこの特別な飲み物は、今もなお、世界中の人々を魅了し続けています。