ビオチン

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日本酒

お酒と栄養:知られざるビオチンの世界

お酒、特に日本酒は、古くから日本の食卓を彩り、私たちの生活に深く結びついてきました。その独特の風味や香りは、微生物の繊細な働きによって生み出されます。日本酒造りにおいて、微生物、特に酵母は欠かせない存在です。酵母の種類や性質によって、お酒の味わいは千差万別、多様な表情を見せてくれます。今回注目するのは、酵母の生育に深く関わる栄養素である「ビオチン」です。ビオチンは、水溶性のビタミンの一種で、酵母の生育に欠かせない成分です。酵母が元気に活動するためには、ビオチンが十分に供給されている必要があります。ビオチンが不足すると、酵母の増殖が阻害され、発酵が順調に進まなくなることがあります。発酵が滞ると、お酒の香味に悪影響を及ぼす可能性も出てきます。ビオチンは、糖質、脂質、タンパク質の代謝にも関与しており、酵母の活動を支える重要な役割を担っています。ビオチンは、様々な食品に含まれています。例えば、レバーや卵黄、大豆、ナッツ類などに多く含まれています。日本酒の原料となる米にも、少量ながらビオチンが含まれています。しかし、精米歩合が高いほど、ビオチン含有量は減少する傾向にあります。そのため、吟醸酒や大吟醸酒のように精米歩合の高いお酒を造る際には、ビオチンの添加が必要となる場合があります。ビオチンの添加は、酵母の生育を促進し、安定した発酵を実現するために重要な技術です。適量のビオチンを添加することで、酵母の活性を高め、望ましい香味のお酒を造ることができます。しかし、過剰に添加すると、オフフレーバーと呼ばれる好ましくない香りが発生する可能性もあるため、注意が必要です。杜氏たちは、長年の経験と勘に基づき、最適なビオチンの量を見極め、お酒造りに活かしています。それぞれの酒蔵が持つ独自の技術と、微生物の繊細な働きが、多様な日本酒を生み出しているのです。