ロンドン

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ビール

蒸気機関とビール:ウィットブレッド社の革新

百八十年代の後半、大きな変革の波が世界を覆い始めました。産業革命です。様々な分野で新しい技術が生まれ、人々の暮らしや仕事のやり方が大きく変わろうとしていました。この変革の波は、ビール作りの世界にも押し寄せました。ロンドンで有名なビール作り会社、ウィットブレッド社は、いち早く新しい技術を取り入れることで知られていました。彼らが目をつけたのは、蒸気機関です。熱い湯気を利用して大きな力を生み出すこの機械は、当時としては画期的な発明でした。ウィットブレッド社は、この蒸気機関をビール作りに活用することを思いついたのです。それまでのビール作りは、多くの工程で人の力に頼っていました。特に、井戸から水を汲み上げたり、麦芽を砕いたりする作業は大変な重労働でした。そこで、ウィットブレッド社は蒸気機関を導入し、これらの作業を機械化することにしました。およそ十馬力の力を持つ蒸気機関は、人力の何倍もの速さで仕事をこなすことができました。蒸気機関の導入によって、ウィットブレッド社のビール作りは劇的に変わりました。たくさんのビールを短い時間で製造できるようになったため、より多くの人々にビールを届けることができるようになったのです。人々は、手軽に美味しいビールを楽しめるようになりました。ウィットブレッド社の革新的な取り組みは、他のビール作り会社にも大きな刺激を与えました。「蒸気機関を使えば、もっとたくさんのビールを作ることができる!」と気づいた人々は、こぞって蒸気機関を導入していきました。こうして蒸気機関は、ビール作りの世界でなくてはならないものとなっていったのです。そして、ビールは人々の生活に欠かせない飲み物として、さらに広く親しまれるようになっていきました。
スピリッツ

ジンの魅力を探る:歴史と香りを楽しむ旅

香りのよいお酒として知られるジンは、実はオランダで生まれた薬用酒が出発点です。時は17世紀、ヨーロッパではペストが猛威を振るっていました。人々は病から逃れようと様々な治療法を模索する中で、ライデン大学の医学教授、シウルクス・デ・ブーレは腎臓病の治療薬としてジュニパーベリーに着目しました。ジュニパーベリーは針葉樹の仲間の実で、利尿作用があることから、デ・ブーレ教授は蒸留酒にこのジュニパーベリーを漬け込みました。これがジンの原型です。この薬用酒は「ジュネヴァ」と呼ばれ、のちにジンへと変化しました。ジュネヴァという名前の由来には諸説ありますが、オランダの英語名であるホランドから来ているという説が有力です。ペストの流行という暗い時代に生まれたジュネヴァですが、その効能は人々の間で評判となり、広く普及していきます。オランダからイギリスへと渡ったジュネヴァは、その後、大きな転換期を迎えます。イギリスでは、独自の製法や飲み方が発展し、ジンは薬用酒としての役割から、嗜好品として楽しまれるお酒へと変化していったのです。特に、18世紀のロンドンではジンが爆発的に流行し、「ジン・クレイジー」と呼ばれる社会現象も巻き起こりました。現在では、世界中で愛されるお酒となったジン。その爽やかな香りと味わいは、カクテルのベースとしても人気です。薬用酒としてひっそりと誕生したジンが、時代を経て世界的なお酒へと発展した歴史は、まさに驚くべき変遷と言えるでしょう。ジュニパーベリーの香りに包まれながら、その歴史に思いを馳せてみるのも一興です。