
幻の酒、花酒の世界
花酒は、日本の最西端、沖縄県の与那国島で造られる、幻の蒸留酒です。その名は、美しく咲き誇る花のように華やかですが、実際は、私たちが普段口にするお酒とは全く異なる性質を持っています。花酒最大の特徴は、その非常に高いアルコール度数にあります。なんと60度にも達し、これは一般的なお酒の度数をはるかに超えています。この高アルコール度数のため、日本の法律では、そのまま飲むためのお酒としては認められていません。実は、酒税法上は「原料用アルコール」に分類されており、梅酒や果実酒など、他のお酒を作る際の材料として使われることが多いのです。そのため、酒屋の店頭に並ぶことはほとんどなく、一般の人が手にする機会は大変限られています。まるで幻のように、人知れず存在していることから、「幻の酒」とも呼ばれているのです。花酒は、与那国島で長年受け継がれてきた伝統的な製法で造られています。原料には、タイ米が使われます。タイ米を蒸して麹菌を繁殖させ、さらに酵母を加えて発酵させます。この発酵によって生まれたもろみを蒸留することで、無色透明で高アルコール度数の花酒が得られます。その味わいは、まさに度数の高さからくる力強さが特徴です。ストレートで飲むと、口の中に熱が広がり、独特の香りが鼻腔をくすぐります。しかし、その強い風味ゆえに、そのまま飲む人は少なく、泡盛に少量加えて風味を調整したり、梅や果実を漬け込んで自家製のお酒を作る際に利用されたりしています。また、料理の隠し味として少量加えることで、食材の旨味を引き出す効果もあると言われています。このように、花酒は与那国島の人々の生活に深く根付いており、様々な用途で活用されている、まさに島の宝と言えるお酒なのです。