中世ヨーロッパ

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ビール

中世の味わい、グルートビールの世界

聞き慣れない名前の飲み物、グルートビール。その名は、ビールの歴史を語る上で欠かせません。実は、私たちがよく知るホップを使ったビールが世に広まるずっと前、中世ヨーロッパの人々は、グルートと呼ばれる様々な草や木の実、香辛料を混ぜ合わせたものを用いてビールを作っていました。このグルートを使ったビールこそが、グルートビールと呼ばれるもので、当時のビールの風味を決定づける重要な役割を担っていました。グルートビールは、ホップを使ったビールとは全く異なる味わいです。ホップの苦みや柑橘系の香りはなく、グルートに含まれる様々な薬草や香辛料によって、複雑で奥深い風味と香りが生まれます。甘草のような甘い香り、生姜のようなピリッとした刺激、シナモンのようなスパイシーな風味など、使用する材料によって実に様々な個性が現れます。まさに、森や野原の恵みを集めたような、自然の味わいが楽しめる飲み物と言えるでしょう。ホップの登場により、ビールの製造は安定し、大量生産が可能になりました。その結果、風味の均一化されたホップを使ったビールが主流となり、多様な風味を持つグルートビールは次第に姿を消していきました。しかし近年、クラフトビールブームの到来と共に、忘れ去られていたグルートビールは再び脚光を浴び始めています。ビール本来の多様性と奥深さを追い求める醸造家たちが、中世のレシピを参考に、独自のグルートビールを造り出しているのです。遠い昔のヨーロッパの人々が味わったであろう、個性豊かなグルートビール。現代に蘇ったその味わいは、ビールの歴史と文化を私たちに伝えてくれます。一口飲めば、まるで中世の世界にタイムスリップしたかのような、不思議な感覚に包まれることでしょう。
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職人組合ツンフト:中世のビール醸造

中世ヨーロッパ、とりわけドイツ語圏で『ツンフト』と呼ばれた職人組合をご存知でしょうか。これは現代の組合の起源とも言える組織で、15世紀頃にその姿を現しました。誕生の舞台は、修道院です。修道院は当時、人々の信仰の中心であると同時に、ビール醸造の中心地でもありました。人々の生活に欠かせないビールは、修道士たちによって丹念に醸造され、その技術は脈々と受け継がれてきました。ツンフトはそんな修道院の中で、修道院の建設に携わる職人たちによって作られました。ツンフトは、キリスト教の教えに基づく社会奉仕と相互扶助の精神を基盤としていました。単なる技術集団ではなく、互いに助け合い、技術の向上に励み、社会に貢献することを目的としていました。組合員たちは、困っている仲間がいれば助け合い、病気や怪我をしたときには支え合いました。また、未熟な職人には熟練の職人が技術指導を行い、全体の技術水準の向上に努めました。初期のツンフトは、石工や大工といった修道院の建設に携わる職人たちが中心でした。彼らは、修道院建設という共通の目的のもと、互いの技術を尊重し、協力し合うことで、壮大な建築物を作り上げていきました。その後、ツンフトは次第に様々な職種の職人を受け入れるようになり、仕立て屋、靴職人、パン職人など、多種多様な職人が参加するようになりました。そしてもちろん、修道院でビールを醸造する職人たちもツンフトに加入し、その活動の中心的な役割を担うようになっていったのです。現代社会における様々な組合も、このツンフトの精神を受け継いでいると言えるでしょう。