乾湿差

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日本酒

麹づくりと温度計:乾湿差の役割

おいしい日本酒や味噌、醤油。これらを作る上で欠かせないのが麹です。麹は、蒸した米や麦、大豆などに麹菌を繁殖させたもので、日本酒造りでは米のデンプンを糖に変え、味噌や醤油造りでは大豆のタンパク質をアミノ酸に分解するなど、それぞれの発酵過程で重要な役割を担っています。麹づくりにおいて最も大切なのは、麹菌が活発に活動できる環境を整えることです。麹菌は生き物なので、温度や湿度が適切でなければうまく育ちません。まるで小さな生き物を育てるように、注意深く見守りながら環境を整えていく必要があります。その環境を整える上で重要なのが、乾湿差という考え方です。乾湿差とは、その名の通り、乾球温度と湿球温度の差のことです。乾球温度とは、普通の温度計で測る温度のことです。一方、湿球温度とは、温度計の球部にガーゼなどを巻き、水で湿らせた状態で測る温度のことです。湿球温度は、水分が蒸発する際に熱が奪われるため、乾球温度よりも低くなります。この温度差が、空気中の水蒸気の量を表す指標となるのです。麹菌は、適度な水分と温度の中で最も活発に活動します。湿度が高すぎると、麹菌以外の雑菌も繁殖しやすくなり、麹が腐敗してしまう可能性があります。逆に、湿度が低すぎると、麹菌の活動が鈍くなり、うまく成長しません。そこで、乾湿差を測ることで、空気中の水分量を把握し、最適な湿度を保つことができるのです。麹づくりでは、温度計と湿度計を用いて、常に温度と湿度を管理します。そして、乾湿差の値を目安に、加湿や換気などの調整を行い、麹菌にとって最適な環境を維持するのです。一見難しそうに思えるかもしれませんが、仕組みを理解すれば、麹づくりの奥深さをより一層感じることができるでしょう。古来より受け継がれてきた伝統的な発酵技術である麹づくり。その中には、先人たちの知恵と工夫が凝縮されているのです。