
紫外部吸収と日本酒の味わい
お酒造りの世界では、お酒の品質や特徴を知るために様々な分析が行われています。その一つに「紫外部吸収」と呼ばれるものがあります。これは、お酒に紫外線を当てた時に、どれくらい光が吸収されるかを数値化したもののことです。具体的には、波長280ナノメートルという紫外線を日本酒に照射し、その光の吸収の程度を測定します。この時の吸収の程度を「吸光度」と呼び、紫外部吸収の値として用います。では、なぜ280ナノメートルの紫外線を使うのでしょうか?それは、この波長の紫外線が、お酒に含まれる特定の種類の成分に特に吸収されやすいからです。その成分とは、「アミノ酸」と呼ばれるものです。アミノ酸は、お酒の味わいや香りに大きな影響を与える成分です。中でも、チロシン、トリプトファン、フェニルアラニンという3種類のアミノ酸は、280ナノメートルの紫外線をよく吸収する性質を持っています。これらのアミノ酸は、分子構造の中に「ベンゼン環」と呼ばれる特別な構造を持っており、この構造が紫外線の吸収に深く関わっています。そのため、紫外部吸収の値は、これら3種類のアミノ酸の合計量を反映していると言えるのです。お酒造りの現場では、この紫外部吸収の値を、お酒の状態を把握する一つの指標として利用しています。紫外部吸収の値が高いほど、これらのアミノ酸が多く含まれていることを示し、これはお酒の色合いの濃さや、味わいの複雑さ、熟成の進み具合などに関係していると考えられています。例えば、熟成が進むとアミノ酸が変化したり分解したりすることで、紫外部吸収の値が変化することがあります。このように、目に見えない紫外線を利用することで、お酒の中に含まれる成分の量を推定し、お酒の品質や特徴を理解する手がかりを得ることができるのです。