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日本酒

お酒造りの温度管理:前高後低型とは?

お酒造りは、古くから伝わる繊細な技と、長年の経験によって支えられています。その中でも、お酒の風味を決める重要な要素の一つに、醪(もろみ)の温度管理があります。醪とは、蒸した米と麹、そして水を混ぜ合わせて発酵させた液体のことで、まさにお酒の源と言えるでしょう。この醪の温度をどのように調整するのかが、お酒の香りと味わいを大きく左右するのです。醪の温度管理には様々な方法がありますが、今回は「前高後低型」と呼ばれる方法について詳しく見ていきましょう。この方法は、発酵の初期段階で醪の温度を高く保ち、後半にかけて徐々に温度を下げていくというものです。まず、発酵初期に温度を高くするのは、酵母を活発に活動させるためです。酵母は温度が高いほど活発に働き、糖分を分解してアルコールと炭酸ガスを生成します。これにより、力強く華やかな香りが生まれます。また、雑菌の繁殖を抑える効果も期待できます。次に、発酵の後半に温度を下げていくのは、穏やかな発酵を促し、繊細な香りを守るためです。温度が低いと酵母の活動は穏やかになり、ゆっくりと発酵が進みます。これにより、奥深く複雑な味わいが生まれます。また、急激な温度変化による香りの飛散を防ぐ効果もあります。このように、「前高後低型」の温度管理は、初期段階での力強い香りと、後半段階での繊細な香りの両方をバランス良く引き出すための、高度な技術と言えるでしょう。この方法で造られたお酒は、香り高く、味わい深いものとなります。まさに、伝統の技と経験の結晶と言えるでしょう。
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お酒造りの難所:イラ湧きとその対策

酒造りの工程で、醪(もろみ)と呼ばれる、米と麹と水から成る仕込み液を管理する中で、醪が荒々しく湧き上がるように変化する現象を「いら湧き」と言います。これは、酒造りの初期段階で起こりうる、注意が必要な現象です。本来、醪の中では、米のデンプンを糖に変える「糖化」と、その糖をアルコールに変える「発酵」が、同時進行でバランスよく進むことが理想とされています。しかし、いら湧きが起こると、この調和が乱れてしまいます。糖が十分に作られる前に、発酵の勢いが異常に強まり、醪の温度が急激に上昇するのです。まるで、火にかけた鍋の中身が急に沸騰するように、醪の状態が不安定になります。この急激な温度上昇は、酒造りにとって様々な問題を引き起こします。まず、高温に弱い酵母がダメージを受け、本来の働きができなくなってしまいます。その結果、発酵が途中で止まってしまったり、目指す酒質とは異なるものが出来上がってしまう可能性があります。また、糖化が不十分なまま発酵が進むと、雑味や好ましくない香りが生じ、風味のバランスが崩れてしまうこともあります。繊細な味わいを求める日本酒にとって、これは大きな痛手です。このような事態を防ぐため、蔵人たちは醪の状態を常に注意深く観察し、いら湧きの兆候を見逃さないように細心の注意を払います。そして、いら湧きが起きた際には、温度を適切に管理したり、醪の成分を調整するなど、迅速な対応が必要となります。伝統的な技と経験に基づいた的確な判断と対応によって、美味しい日本酒造りは支えられているのです。