
伝統の技、蓋麹法:吟醸酒を生む麹づくり
蓋麹法とは、日本酒造りの工程のひとつ、麹造りで用いられる昔ながらの技法です。麹とは、蒸した米に麹菌を繁殖させたもので、日本酒造りには欠かせない材料です。この麹を育てる作業を製麹といいますが、蓋麹法はこの製麹工程で用いられる伝統的な方法です。麹蓋と呼ばれる木製の盆に、種麹をまぶした蒸米を薄く広げ、麹菌を育てていきます。まるで種もみを苗代で育てるように、麹菌を大切に育てていく様から、この名前がついたと言われています。この蓋麹法は、かつて広く行われていた方法で、現在主流となっている箱麹法が登場する以前から存在していたため、在来法とも呼ばれています。箱麹法などの機械化された方法では、温度や湿度の管理が自動で行われますが、蓋麹法は職人が長年の経験と勘を頼りに、温度や湿度を調整しながら、手作業で麹を育てていきます。具体的には、麹蓋を重ねたり、間隔をあけたりすることで温度を調整し、麹の状態を見ながら適宜切り返しと呼ばれる作業を行います。切り返しとは、麹蓋の中の蒸米を丁寧にほぐし、混ぜ合わせる作業で、麹菌が米全体に均一に繁殖するために欠かせない作業です。蓋麹法は、機械化された方法に比べて非常に手間と時間がかかります。しかし、職人の五感を駆使して行うきめ細やかな作業により、雑味のない繊細な味わいの麹を造り出すことができます。そのため、手間暇を惜しまず高品質な酒を造りたい蔵元では、蓋麹法は今でも高級酒である吟醸酒造りに用いられることが多いのです。機械では再現できない、人の手だからこそ生み出せる、繊細で奥深い味わいを求めて、この伝統的な技法は今もなお受け継がれているのです。