
お酒と嫌気性菌の不思議な関係
お酒造りにおいて、酸素を嫌う性質を持つ菌、すなわち嫌気性菌は、なくてはならない存在です。まるで個性豊かな職人たちが集まり、それぞれの持ち味を生かして共同作業をしているかのようです。お酒の種類によって、活躍する菌の種類も異なり、その働きによってお酒の風味や香りが決定づけられます。まさに、嫌気性菌こそがお酒の個性豊かな味わいを生み出す立役者と言えるでしょう。これらの菌は、酸素に対する耐性によって大きく三つの種類に分けられます。まず、酸素があると生育できない「偏性嫌気性菌」です。彼らは酸素を毒のように感じ、酸素に触れると死んでしまうものもいます。お酒造りの現場では、空気に触れないよう細心の注意を払って扱われます。次に、酸素があってもなくても生育できる「通性嫌気性菌」がいます。彼らは環境に応じて、酸素呼吸と発酵を使い分けます。酸素があるときは酸素呼吸を行い、ないときは発酵によってエネルギーを得ます。まるで器用な職人のように、状況に合わせて柔軟に対応します。最後に、微量の酸素を必要とする「微好気性菌」がいます。彼らは酸素が全くないと生育できませんが、多すぎてもダメという、繊細な性質を持っています。まるで特別な技術を持つ熟練の職人です。日本酒造りで活躍する酵母は、通性嫌気性菌にあたります。酸素がある環境では盛んに増殖し、酸素がなくなると糖を分解してアルコールと二酸化炭素を作り出します。この働きによって、日本酒独特の風味と香りが生まれます。ビール造りに欠かせないビール酵母も、同じく通性嫌気性菌です。ワイン造りにおいては、ブドウの皮に付着している野生酵母や、人工的に添加される酵母がアルコール発酵を担います。このように、お酒造りにおいては様々な嫌気性菌が活躍しています。それぞれの菌が持つ個性と、職人の丁寧な作業によって、私たちが楽しむ様々なお酒の個性豊かな味わいが生み出されているのです。