山卸し

記事数:(3)

日本酒

伝統の技、生酛造り:日本酒の深淵に触れる

生酛(きもと)とは、日本酒を作る上で欠かせない酒母(しゅぼ)というものの種類の一つです。酒母とは、お酒作りに使う酵母を純粋培養して増やすための大切な環境のことを指します。生酛造りと速醸酛(そくじょうもと)造りという二つの作り方がある中で、生酛造りは自然界にある乳酸菌の力を使って作られます。一方、速醸酛造りは人工的に乳酸を加える点が大きな違いです。生酛造りは、空気中を漂う乳酸菌を取り込み、自然に発酵させることで乳酸を作ります。この乳酸が、他の雑菌が増えるのを抑え、酵母が元気に育つための環境を整えてくれるのです。自然の力をうまく利用したこの方法は、古くから伝わる日本酒造りの伝統的な技法として大切に受け継がれてきました。生酛造りは、手間暇がかかりますが、その分、他にはない独特の風味と奥深い味わいを生み出すことができます。自然の乳酸菌が作り出す複雑な香りと味わいは、まさに生酛ならではの魅力と言えるでしょう。現在では、より早く効率的に作れる速醸酛が主流となっています。しかし、生酛造りは日本酒の歴史や奥深さを知る上で、そして日本酒本来の味わいを楽しむ上で、なくてはならない製法です。古くからの伝統を守りながら、手間暇かけて作られる生酛の日本酒は、独特の酸味と複雑な味わいが特徴で、日本酒好きを魅了し続けています。
日本酒

山廃酛:伝統の技が生む奥深い味わい

日本酒は、米、水、麹、そして酵母というシンプルな材料から、驚くほど複雑で奥深い味わいを生み出します。その味わいを決定づける重要な要素の一つが「酛(もと)」と呼ばれる酒母造りの工程です。数ある酛の中でも、山廃酛は自然の力を最大限に活用した、伝統的な手法として知られています。山廃酛の最大の特徴は、自然界に存在する乳酸菌の働きを利用する点にあります。空気中に漂う乳酸菌が自然に酒母の中に入り込み、ゆっくりと増殖することで雑菌の繁殖を抑え、同時に酒母に独特の酸味と風味を与えます。この工程は「山卸廃止酛」の略称である山廃酛の由来にも深く関わっています。かつては、蒸米、麹、水を混ぜ合わせる作業で櫂棒を用いてすり潰す「山卸」という重労働が必要でした。しかし、乳酸菌の働きをうまく利用することで、この「山卸」の作業を省略できるようになったのです。山廃酛造りは、速醸酛のように人工的に乳酸を添加するのではなく、自然の乳酸菌の力を借りてじっくりと時間をかけて行われます。そのため、蔵付き酵母と呼ばれるその蔵に固有の酵母や乳酸菌の働きが大きく影響し、それぞれの蔵で異なる独特の風味を持つ山廃酛が生まれます。また、乳酸菌が作り出す乳酸は、雑菌の繁殖を抑えるだけでなく、酵母の生育を促進する効果もあります。こうして育まれた酵母は、力強く発酵を進め、複雑で奥行きのある味わいを日本酒にもたらします。山廃酛ならではの、力強い酸味とコク、そして複雑な味わいは、まさに自然の恵みと職人の技が生み出す芸術と言えるでしょう。自然の微生物の力を巧みに操り、奥深い味わいを醸し出す山廃酛は、日本酒造りの奥深さを物語る一つの象徴と言えるでしょう。
日本酒

日本酒造り 山卸しの世界

酒造りにおいて、山卸しとは、醪(もろみ)造りの最初の工程であり、日本酒の味わいを左右する重要な作業です。醪とは、蒸し米、麹、仕込み水を混ぜ合わせたもので、いわば日本酒の原型と言えるでしょう。山卸しという言葉は、その名の通り、山のように高く盛られた蒸し米と麹に仕込み水を混ぜ合わせる様子から名付けられました。まず、大きな桶の中に蒸し米が山のように高く盛られます。その上に、同じく山のように麹が重ねられます。この様は、まさに二つの山が重なり合う壮観な景色です。ここに、計算された量の仕込み水が加えられます。そして、櫂(かい)と呼ばれる、舟のオールに似た長い木製の道具を使って、蒸し米と麹を仕込み水に溶かしていきます。この櫂入れは、力仕事であると同時に、非常に繊細な作業でもあります。櫂入れの目的は、単に材料を混ぜ合わせるだけではありません。麹の酵素を均一に作用させることが、良質な日本酒造りの鍵となります。櫂の入れ方、速度、そして醪の状態を常に注意深く観察しながら、作業を進める必要があります。醪の温度、粘度、そして香りは刻一刻と変化していきます。熟練の杜氏は、長年の経験と鋭い感覚で、これらの微妙な変化を読み取り、櫂入れを調整します。まるで、生き物と対話をするかのように、醪の状態に耳を傾け、最適な状態へと導いていくのです。山卸しは、数時間にもかかる重労働です。しかし、この丁寧な作業こそが、日本酒の深い味わいを生み出す、まさに日本酒造りの心臓部と言えるでしょう。杜氏の技と情熱が、山のような蒸し米と麹を、芳醇な日本酒へと変化させる、まさに魔法のような工程と言えるでしょう。