
ニュンフェンブルグ:貴族の品格
今からおよそ二百七十年前、一七四三年、ドイツはバイエルン地方に、のちに世界に名を馳せるニュンフェンブルグ磁器工房が誕生しました。その始まりは、バイエルン選帝侯、マクシミリアン三世の熱い思いからでした。当時、磁器は東洋から輸入される大変貴重な品であり、ヨーロッパでは限られた場所でしか作られていませんでした。その製造方法は門外不出の秘伝とされ、各国がその技術の習得にしのぎを削っていました。マクシミリアン三世もまた、自国での磁器生産を夢見て、その実現に情熱を注ぎました。マクシミリアン三世は、ウィーンの窯で磁器作りの秘伝を学んだヨーゼフ・ヤーコプ・リングラーという人物を招き入れました。リングラーは、選帝侯の期待を一身に背負い、磁器作りの研究に没頭しました。しかし、磁器作りは容易ではありませんでした。原料の調合、成形、焼成、釉薬の調合など、あらゆる工程で試行錯誤が繰り返されました。幾度となく失敗を繰り返し、それでも諦めることなく、リングラーは研究を続けました。そしてついに、一七五三年、ついに純白で美しい磁器を作り出すことに成功したのです。実に十年にも及ぶ歳月をかけた、執念の賜物でした。この偉業は、マクシミリアン三世の悲願達成であり、ニュンフェンブルグ磁器工房の輝かしい歴史の始まりでもありました。リングラーが作り出した純白の磁器は、ニュンフェンブルグの象徴となり、その名は瞬く間にヨーロッパ中に広まりました。その後も、ニュンフェンブルグ磁器工房は、優れた職人たちの手によって、様々な形の美しい磁器を生み出し続けました。花や人物をかたどったもの、鮮やかな色彩で絵付けされたものなど、その作品はどれも芸術性が高く、王侯貴族たちを魅了しました。二百七十年の時を経た今もなお、ニュンフェンブルグ磁器工房は、世界最高峰の磁器工房として、その伝統を守り、美しい磁器を作り続けています。