
お酒造りに欠かせない水の力
お酒は、米、米麹、水というシンプルな材料から作られますが、その中でも水は全体の約8割を占めるほど大きな割合を占めています。そのため、仕込み水の水質はお酒の味わいを大きく左右する重要な要素となります。単なる溶媒としてだけでなく、酵母や麹菌の生育、発酵の進み具合、最終的な風味や香りにまで、水は深く関わっているのです。酒造りに適した水には、いくつかの条件があります。まず、硬水よりも軟水が好まれます。これは、硬水に含まれるマグネシウムやカルシウムなどのミネラル分が、麹菌の酵素の働きを阻害したり、発酵を遅らせたりする可能性があるためです。逆に、適度なミネラル分を含む軟水は、麹菌や酵母の活動を活発にし、豊かな味わいを生み出す助けとなります。また、雑菌の繁殖を抑えるためにも、水は清浄であることが求められます。古くから酒造りが盛んな地域には、名水と呼ばれる湧き水や井戸水が存在することが多く、それぞれの酒蔵はその土地の水脈から湧き出る水を大切に使用しています。例えば、京都の伏見は日本酒の名産地として知られていますが、これは良質な地下水に恵まれていることが大きな理由の一つです。酒蔵は、その土地の水質に合った酒米を選び、独自の製法を編み出すことで、その土地ならではのお酒を醸し出しているのです。このように、水は酒造りにおいてまさに命と言えるほど重要な要素であり、酒蔵はその土地の水を活かすことで、個性豊かなお酒を生み出しているのです。日本酒の奥深さを知るためには、その背景にある水へのこだわりにも目を向ける必要があると言えるでしょう。