揮発酸

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日本酒

日本酒の火落ち:劣化を防ぐ知識

お酒造りの世界では、日本酒が傷んでしまうことを『火落ち』と呼びます。これは、日本酒の中に棲む『火落ち菌』と呼ばれる微生物の仕業です。火落ち菌は、正式には火落菌と呼ばれ、乳酸菌の一種です。この菌が増えると、お酒本来の美しい色合いに濁りが生じ、白く霞んだようになってしまいます。さらに、酸味がきつくなり、鼻につく独特の臭いを発するようになります。この臭いは『火落ち臭』と呼ばれ、お酒の香りを損ねてしまうのです。火落ち臭の主な成分は、ジアセチルと揮発酸という物質です。ジアセチルは、バターやチーズのような香りを持ちますが、日本酒では好ましくありません。揮発酸は、ツンとする酸っぱい臭いの原因となります。美味しいお酒を造るために、蔵人たちは様々な工夫を凝らしています。その一つが『火入れ』と呼ばれる加熱処理です。お酒を火入れすることで、火落ち菌をはじめとする微生物の活動を弱め、お酒の品質を保つことができるのです。しかし、火入れが十分でなかったり、お酒の保存状態が悪かったりすると、せっかくの火入れも効果を発揮できず、火落ち菌が増殖してしまうことがあります。例えば、直射日光の当たる場所に置いたり、温度変化の激しい場所に保管したりすると、火落ちのリスクが高まります。一度火落ちしてしまった日本酒は、元の風味や香りが失われ、本来の味わいを楽しむことができなくなります。美味しいお酒を造るには、火落ちを防ぐための対策が欠かせません。蔵元では、清潔な環境で醸造を行うことはもちろん、適切な温度管理のもとで保管することで、火落ちを防ぎ、お酒の品質を守っています。消費者の側も、購入後は適切な場所で保管し、早めに飲み切るように心がけることが大切です。そうすることで、蔵人が丹精込めて造り上げたお酒を、最高の状態で味わうことができるでしょう。