槽搾り

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日本酒

伝統の技:槽搾りの世界

お酒造りは、日本の歴史と文化に深く根ざした伝統産業です。古くから人々は、自然の恵みである米、水、麹菌、酵母を用いて、様々な種類のお酒を造り、生活の中に取り入れてきました。中でも日本酒は、日本の国酒として、祭りや祝い事、冠婚葬祭など、人生の節目節目で人々の生活に寄り添い、共に歩んできました。その歴史は、稲作文化の伝来とともに始まったと言われています。弥生時代には、既に米を原料としたお酒が造られていたと考えられており、古墳時代には、酒造りが盛んに行われていたことを示す遺跡も発見されています。奈良時代には、宮中や寺院で酒造りが行われ、貴族や僧侶の間で楽しまれていました。平安時代には、貴族の文化として洗練され、様々な酒器や飲酒の作法も発展しました。鎌倉時代から室町時代にかけては、武家の台頭とともに、酒造りは庶民にも広まり、各地で独自の酒造りの文化が育まれていきました。江戸時代には、酒造りの技術が飛躍的に進歩しました。米の精米技術の向上や、麹菌や酵母の研究、そして、酒造りの道具の改良などにより、より品質の高いお酒が造られるようになりました。特に、江戸時代後期に開発された「並行複発酵」という製法は、日本酒造りに革命をもたらし、現代の日本酒造りの基礎となっています。また、この時代には、酒造りのための専門書も出版され、酒造りの知識や技術が体系化されていきました。明治時代以降、西洋の科学技術が導入され、酒造りは更なる発展を遂げました。酵母の純粋培養技術の確立や、温度管理の徹底などにより、お酒の品質は安定し、大量生産も可能になりました。今日では、伝統的な製法を守りながら、最新の技術も取り入れ、多様な風味と味わいの日本酒が造られています。先人たちの知恵と工夫は、現代の酒造りにも脈々と受け継がれ、日本の食文化を豊かに彩っています。
日本酒

酒造りの心:槽という伝統

お酒を造る過程で、発酵が終わったもろみからお酒と酒粕を分ける作業を『上槽(じょうそう)』といいます。この上槽で欠かせない道具が『槽(ふね)』です。槽は、舟の底のような形をした浅くて大きな桶のようなものです。昔ながらのやり方では、この槽の中に布の袋を入れ、その袋にもろみを詰めます。そして、上から大きな蓋をかぶせ、ゆっくりと圧力をかけていきます。すると、布の袋の目からもろみの中の液体だけが染み出てきて、槽の下に溜まっていきます。これがお酒になる部分で、袋の中に残ったものが酒粕です。槽の大きさは、使うお酒の量によって様々です。小さなものから、人が入れるほど大きなものまであります。材質も、昔は木で作られていましたが、今はプラスチック製のものなどもあります。お酒をしぼる道具は、槽の他にも色々あります。例えば、『ヤギ』と呼ばれる道具は、てこの原理を使って圧力をかけるもので、槽と組み合わせて使われます。また、自動で圧力をかけてお酒をしぼる機械も開発されていて、多くの酒蔵で使われています。しかし、今でも高級なお酒を造る酒蔵では、昔ながらの槽を使った方法で丁寧に作業をしているところがあります。機械では出せない、繊細な味や香りを守るためです。このように、槽は長い歴史の中で、お酒造りに欠かせない道具として、大切に使い続けられています。