火落ち菌

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日本酒

日本酒と火入れ:伝統の技法

お酒造りの最終段階で行われる大切な作業の一つに「火入れ」があります。火入れとは、簡単に言うと、お酒を熱して品質を安定させるための方法です。お酒は発酵によって造られるため、蔵での貯蔵中に、目には見えない小さな生き物の活動によって味が変わってしまうことがあります。これを防ぐために、火入れを行います。火入れは、お酒を適切な温度で加熱することで、お酒の中の小さな生き物を死滅させ、それ以上の変化を抑えます。火入れされていないお酒は「生酒」と呼ばれ、フレッシュな風味と香りが特徴ですが、温度変化に弱く、品質が変わりやすいという難点があります。一方、火入れをしたお酒は、生酒に比べて風味や香りが穏やかになることもありますが、品質が安定し、長期間保存が可能になります。火入れの方法は、大きく分けて二種類あります。一つは瓶に詰めた後に行う「瓶火入れ」、もう一つは瓶詰めする前に行う「貯蔵火入れ」です。瓶火入れは、瓶に詰めたお酒を湯煎で温める方法で、一度に大量のお酒を処理することができます。貯蔵火入れは、タンクに貯蔵されているお酒を加熱する方法で、瓶詰め時の雑菌混入を防ぐ効果があります。どちらの方法にもメリットとデメリットがあり、蔵元はそれぞれの酒質や目指す味わいに合わせて火入れの方法を選択しています。古くから、火入れは日本酒造りに欠かせない工程として、大切に受け継がれてきました。火入れによって、お酒の品質を守り、私たちがいつでも美味しいお酒を味わうことができるのです。現在でも、多くの蔵元が伝統的な火入れの技術を守りながら、より良いお酒造りに励んでいます。
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日本酒と乳酸菌の密接な関係

日本酒造りにおいて、乳酸菌は欠かせない存在です。日本酒独特の風味や品質を左右する上で、乳酸菌が重要な役割を担っています。特に、古くから伝わる「生酛系酒母」という酒母造りの方法では、乳酸菌の働きが特に重要になります。酒母とは、お酒のもととなる酵母をたくさん増やすための、いわば種のようなものです。日本酒造りの最初の段階で、この酒母を造ります。生酛系酒母造りでは、蒸した米と水を混ぜ、そこに自然に存在する乳酸菌が繁殖するように環境を整えます。乳酸菌は、米に含まれる糖分を分解して乳酸を作り出します。この乳酸によって、酒母は酸性になります。この酸性の環境こそが、他の雑菌の繁殖を防ぐ鍵となります。お酒造りには、酵母以外にも様々な種類の菌が存在しますが、これらの菌が増殖してしまうと、日本酒の品質が落ちてしまうばかりか、腐敗してしまうこともあります。乳酸菌が作り出す酸性の環境は、雑菌の繁殖を抑え、酵母が安全に増殖できる環境を保つ上で、非常に重要な役割を果たしているのです。生酛系酒母造りは、自然界に存在する乳酸菌の力を利用するため、手間と時間がかかります。しかし、この伝統的な方法によって、複雑で奥深い味わいの日本酒が生まれるのです。人工的に乳酸を添加する方法に比べて、自然の乳酸菌がゆっくりと時間をかけて酸性化していくことで、よりまろやかで深みのある味わいが生まれます。このように、小さな生き物である乳酸菌は、日本酒造りにおいて、雑菌の繁殖を防ぎ、酵母の生育を助け、独特の風味を生み出すという、大きな役割を担っています。生酛造りは、まさに自然の恵みと人の知恵が融合した、伝統的な酒造りの技と言えるでしょう。
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日本酒のつわり香:原因と対策

お酒造りの過程で、時折現れるいやな香りを「つわり香」と呼びます。この香りは、妊婦さんが食べ物の好き嫌いが激しくなる「つわり」に例えられたもので、お酒本来の風味を損ないます。例えるなら、ヨーグルトやバター、あるいは古漬けのような、酸っぱくなった乳製品を思わせる香りです。このような香りが少しでも混じると、せっかくのお酒の味が台無しになってしまいます。つわり香の原因となるものは主に「火落ち菌」と呼ばれる微生物です。火落ち菌は、空気中などどこにでも存在するありふれた菌で、お酒造りの現場に紛れ込んで繁殖すると、乳酸を生成し、独特の香りを生み出します。お酒造りは清潔な環境を保つことが何よりも大切ですが、ごくわずかな菌の混入でもつわり香が発生する可能性があるため、細心の注意が必要です。酒蔵では、つわり香の発生を防ぐため、様々な対策を講じています。まず、原料となる米や水、そして製造に使う道具まですべてを清潔に保つことが重要です。また、火落ち菌の繁殖を抑えるために、適切な温度管理も欠かせません。さらに、定期的な検査を実施することで、早期に火落ち菌の混入を発見し、被害を最小限に抑える努力をしています。つわり香の発生は、酒蔵にとって大きな痛手となるばかりでなく、私たち消費者にとっても、美味しいお酒を楽しむ機会を奪うものです。つわり香の原因や対策を知ることで、より一層お酒への理解を深め、お酒造りの奥深さを味わうことができるでしょう。