生もと系

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日本酒

早沸き:日本酒造りの難所

お酒造りの、特に酒のもとを育てる工程で、思いのほか早く発酵が始まってしまう現象を早沸きと言います。酒のもととは、お酒全体の元となる酵母をたくさん増やしたもので、いわばお酒の種のような大切なものです。この酒のもと作りで、本来よりも早く酵母が元気に活動し始めてしまうと、お酒造りにおいて管理が難しくなり、品質にも影響するため、好ましくない現象とされています。具体的には、昔ながらの製法で作られる酒のもとでは、蒸米に含まれるでんぷんが糖に変わる変化と、乳酸菌が酸を作る働きが十分でないうちに、また、簡易な製法で作られる酒のもとでは、蒸米のでんぷんが糖に変わる変化が十分でないうちに、酵母が活発に活動し始めてしまうことを指します。蒸米のでんぷんが糖に変わる変化とは、酵母の栄養となる糖を生み出す工程で、お酒造りにおいて重要な役割を担っています。また、昔ながらの酒のもと作りでは、乳酸菌が酸を作ることで雑菌の繁殖を防ぎ、酒のもとを安定させるという大切な働きがあります。これらの準備が整わないうちに酵母が活動を始めると、雑菌が増えてしまう危険性が高まり、お酒の質に悪い影響を与える可能性があります。そのため、早沸きを防ぐには、適切な温度管理が重要です。さらに、酵母の活動の度合いを調整するために、細心の注意を払う必要があります。蔵人たちは、経験と技術を駆使して、早沸きを防ぎ、質の高いお酒を造るために日々努力を重ねています。丁寧に温度管理を行い、酵母の活動を見守り、雑菌の繁殖を抑えることで、美味しいお酒ができあがるのです。
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酒造りに欠かせない硝酸カリウム

硝酸カリウムとは、化学式で「加里硝石」とも表される無機化合物のことです。見た目は無色透明の結晶または白い粉のような形状をしています。水に大変よく溶ける性質を持っており、土の中にも自然に存在しています。中でも、チリ硝石と呼ばれる鉱物の主な成分として知られています。硝酸カリウムは、その歴史を紐解くと、火薬の原料として使われていたことがわかります。爆発しやすい性質を利用して、花火や爆竹などに使われてきました。また、植物の生育に必要な栄養素であるカリウムを供給するため、肥料としても広く利用されています。さらに、食品添加物としても私たちの生活に深く関わっています。日本では、古くから伝統的な酒造りに硝酸カリウムが欠かせないものとして使われてきました。清酒の製造においては、硝酸カリウムを添加することで、雑菌の繁殖を抑え、酒質を安定させる効果があります。これは、硝酸カリウムが分解されて亜硝酸イオンとなり、これが強い静菌作用を持つためです。特に、吟醸酒のような繊細な味わいの酒には、この静菌作用が重要です。硝酸カリウムの添加量を調整することで、発酵の進み具合を制御し、酒の香りを整えたり、雑味を抑えたりすることができ、酒造りの職人たちは経験と技術を駆使して、その微妙な調整を行っています。このように、硝酸カリウムは私たちの食文化、特に酒造りにおいて、古くから重要な役割を担ってきたと言えるでしょう。ただし、硝酸カリウムは過剰摂取すると人体に悪影響を及ぼす可能性があるため、使用量には注意が必要です。
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日本酒の世界:手造りの奥深さを探る

お酒造りの世界で『手造り』と呼ぶお酒があります。これは、昔から伝わる製法で造られた純米酒や本醸造酒の一部を指します。では、一体どんなお酒が『手造り』と呼ばれるのでしょうか。大きなポイントは、蒸した米を冷ますための『甑(こしき)』に、『麹蓋(こうじぶた)』や『麹箱(こうじばこ)』といった蓋を使うことです。さらに、お酒のもととなる酒母は、『生もと系』か『速醸系』という種類で作られます。これらの条件を満たしたお酒が、『手造り』を名乗ることができるのです。しかし、この『手造り』という言葉には、実ははっきりとした決まりがありません。法律や国の基準で定められたものではなく、お酒造りの人たちの間で使われている呼び方なのです。ですから、『手造り』と書かれていても、すべての作業が人の手だけで行われているとは限りません。機械の力を借りている場合もあります。大切なのは、昔ながらの技術と製法を大切に、手間ひまかけて造られているかどうかということです。例えば、米を蒸す作業を考えてみましょう。大きな甑に米を入れ、均一に蒸すためには、人の経験と技術が必要です。蒸気が全体にしっかり行き渡るように、蓋の開け閉めのタイミングや火加減を調整する繊細な作業が求められます。また、麹蓋や麹箱を使うことで、麹の温度や湿度を一定に保ち、より良い麹を育てることができます。酒母造りにおいても、生もと系や速醸系といった伝統的な製法は、手間と時間がかかりますが、独特の風味や奥深い味わいを生み出します。このように、『手造り』のお酒は、機械では再現できない、人の手による丁寧な作業と、伝統的な製法によって生まれる特別な味わいを持っています。『手造り』と一口に言っても、そこには様々な工夫やこだわりが込められているのです。そして、この定義があいまいだからこそ、日本酒の世界はより深く、面白くなっていると言えるでしょう。