
酒造りの鍵、肌めしとは?
日本酒造りは、まず米を蒸す工程から始まります。その蒸しあがった米全体の中でも、甑(こしき)と呼ばれる蒸籠に直接触れている表面の部分を「肌めし」と言います。この肌めしは、日本酒の味わいを左右する重要な要素の一つです。甑の中で、蒸気は下から上へと立ち上ります。中心部は蒸気に包まれ高温になりますが、甑の底や側面に接している肌めしは、蒸気が直接当たりません。そのため、他の部分に比べて温度が低く、水分を多く含んだ状態になります。まるで炊飯器で炊いたご飯で、お釜の底に接していた部分が少し硬く、水分が多い状態に似ています。この肌めしの水分量の多さが、日本酒造りにどのような影響を与えるのでしょうか。まず、蒸し米全体を均一に冷ます際に、この水分量の多い肌めしは、他の部分の温度を下げる役割を果たします。また、麹菌が繁殖しやすい温度に調整する上でも、重要な役割を担います。麹菌は、蒸し米のデンプンを糖に変える働きをする微生物で、日本酒造りには欠かせません。この麹菌は、適度な水分と温度がないと、うまく繁殖することができません。肌めし部分の水分は、麹菌の繁殖を促し、良質な麹作りを助けるのです。さらに、酒母(酛)造りにおいても、肌めしは重要な役割を果たします。酒母とは、酵母を純粋培養して増やす工程で、日本酒の風味や香りを決定づける重要な工程です。肌めしは、その水分量の多さから、酒母造りの初期段階で雑菌の繁殖を抑える効果があります。こうして、肌めしは蒸し米の温度管理、麹作り、酒母造りと、日本酒造りの様々な工程で重要な役割を担っているのです。一見、蒸しムラのように思える肌めしも、実は日本酒の味わいを深める、隠れた立役者と言えるでしょう。