
蔵付き酵母が生み出す神秘の酒
お酒造りにおいて、アルコールを生み出す微生物である酵母は欠かせない存在です。その酵母を酒母に加える方法には、大きく分けて二つの方法があります。一つは、あらかじめ純粋に育てられた酵母を加える方法です。この方法は、酵母の働きを管理しやすく、安定した品質のお酒を造りやすいという利点があります。香りや味わいを調整しやすいという点も、現代の多様な好みに応える上で重要な要素となっています。もう一つは、蔵に住み着いた酵母をそのまま利用する方法で、一般的に「酵母無添加」と呼ばれています。この方法は、空気中を漂う様々な酵母や、蔵の壁や道具に付着した酵母など、多種多様な酵母が自然と酒母に入り込み、複雑に作用し合います。そのため、同じ蔵であっても、その年その年で異なる味わいが生まれるという、独特の魅力を持つお酒となります。まるで自然のオーケストラのように、様々な酵母が織りなすハーモニーは、他の製法では再現できない奥深い味わいを生み出します。この「酵母無添加」の製法は、蔵に棲みつく酵母、その土地の気候、そして蔵人たちの長年培ってきた経験と技術、これら全てが揃って初めて実現できる、伝統的な手法です。蔵という小さな宇宙の中で、自然の力を最大限に活かし、唯一無二の味わいを醸し出す、まさに日本のお酒造りの奥深さを体現する製法と言えるでしょう。自然の恵みに感謝し、長い歴史の中で受け継がれてきた技術を守り続けることで、これからも様々な表情を見せるお酒が生まれていくことでしょう。