速醸系

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日本酒

速醸酛、日本酒造りの革新

日本の酒造りは、稲作文化と共に長い歴史を刻んできました。米と水、そして麹という三つの要素が、日本の風土と文化を映し出すかのように、複雑に絡み合い、独特の風味を持つ酒を生み出してきたのです。その昔、酒造りは「生酛(きもと)」と呼ばれる製法が中心でした。これは、空気中に漂う自然の乳酸菌の働きを利用して酒母を作る方法です。しかし、自然に頼るこの製法は、発酵の進み具合を調整することが難しく、熟練の杜氏の経験と勘に頼るしかありませんでした。蔵に住み着いた酵母、いわゆる蔵付き酵母が酒の味を左右するため、同じ蔵でも、年によって味が変わることも珍しくありませんでした。つまり、安定した品質の酒を造ることは大きな課題だったのです。酒造りは、自然の力を借りながら、その力を制御するという、繊細な作業の繰り返しです。気温や湿度の変化、米や水の状態を見極め、最適な方法を選び取る。杜氏は、まるで自然と対話するかのように、五感を研ぎ澄まし、酒を育てていきます。仕込みの時期には、蔵人たちは寝食を忘れて作業に没頭し、長い時間と手間をかけて、ようやく一滴の酒が生まれるのです。こうして出来上がった酒は、まさに自然の恵みの結晶と言えるでしょう。米の甘み、水の清らかさ、そして麹が織りなす複雑な香りが、口の中に広がり、人々に至福のひとときをもたらします。古来より、祭事や祝い事には欠かせないものとして大切にされてきた酒は、日本の文化に深く根付いています。そして、これからも、その伝統は脈々と受け継がれていくことでしょう。
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早沸き:日本酒造りの難所

お酒造りの、特に酒のもとを育てる工程で、思いのほか早く発酵が始まってしまう現象を早沸きと言います。酒のもととは、お酒全体の元となる酵母をたくさん増やしたもので、いわばお酒の種のような大切なものです。この酒のもと作りで、本来よりも早く酵母が元気に活動し始めてしまうと、お酒造りにおいて管理が難しくなり、品質にも影響するため、好ましくない現象とされています。具体的には、昔ながらの製法で作られる酒のもとでは、蒸米に含まれるでんぷんが糖に変わる変化と、乳酸菌が酸を作る働きが十分でないうちに、また、簡易な製法で作られる酒のもとでは、蒸米のでんぷんが糖に変わる変化が十分でないうちに、酵母が活発に活動し始めてしまうことを指します。蒸米のでんぷんが糖に変わる変化とは、酵母の栄養となる糖を生み出す工程で、お酒造りにおいて重要な役割を担っています。また、昔ながらの酒のもと作りでは、乳酸菌が酸を作ることで雑菌の繁殖を防ぎ、酒のもとを安定させるという大切な働きがあります。これらの準備が整わないうちに酵母が活動を始めると、雑菌が増えてしまう危険性が高まり、お酒の質に悪い影響を与える可能性があります。そのため、早沸きを防ぐには、適切な温度管理が重要です。さらに、酵母の活動の度合いを調整するために、細心の注意を払う必要があります。蔵人たちは、経験と技術を駆使して、早沸きを防ぎ、質の高いお酒を造るために日々努力を重ねています。丁寧に温度管理を行い、酵母の活動を見守り、雑菌の繁殖を抑えることで、美味しいお酒ができあがるのです。
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日本酒の世界:手造りの奥深さを探る

お酒造りの世界で『手造り』と呼ぶお酒があります。これは、昔から伝わる製法で造られた純米酒や本醸造酒の一部を指します。では、一体どんなお酒が『手造り』と呼ばれるのでしょうか。大きなポイントは、蒸した米を冷ますための『甑(こしき)』に、『麹蓋(こうじぶた)』や『麹箱(こうじばこ)』といった蓋を使うことです。さらに、お酒のもととなる酒母は、『生もと系』か『速醸系』という種類で作られます。これらの条件を満たしたお酒が、『手造り』を名乗ることができるのです。しかし、この『手造り』という言葉には、実ははっきりとした決まりがありません。法律や国の基準で定められたものではなく、お酒造りの人たちの間で使われている呼び方なのです。ですから、『手造り』と書かれていても、すべての作業が人の手だけで行われているとは限りません。機械の力を借りている場合もあります。大切なのは、昔ながらの技術と製法を大切に、手間ひまかけて造られているかどうかということです。例えば、米を蒸す作業を考えてみましょう。大きな甑に米を入れ、均一に蒸すためには、人の経験と技術が必要です。蒸気が全体にしっかり行き渡るように、蓋の開け閉めのタイミングや火加減を調整する繊細な作業が求められます。また、麹蓋や麹箱を使うことで、麹の温度や湿度を一定に保ち、より良い麹を育てることができます。酒母造りにおいても、生もと系や速醸系といった伝統的な製法は、手間と時間がかかりますが、独特の風味や奥深い味わいを生み出します。このように、『手造り』のお酒は、機械では再現できない、人の手による丁寧な作業と、伝統的な製法によって生まれる特別な味わいを持っています。『手造り』と一口に言っても、そこには様々な工夫やこだわりが込められているのです。そして、この定義があいまいだからこそ、日本酒の世界はより深く、面白くなっていると言えるでしょう。