
日本酒の「責め」:圧搾が生む独特の風味
お酒造りは、お米を丁寧に磨いて蒸すことから始まります。蒸したお米に麹菌と酵母を加えて、糖化と発酵という二つの工程を進めていきます。麹菌が蒸米のデンプンを糖に変え、その糖を酵母がアルコールと炭酸ガスに変えていく、大変奥深い工程です。こうして出来上がったものが、お酒のもととなる醪(もろみ)です。醪の中には、液体部分のお酒と、固体部分の酒粕が含まれています。この醪からお酒を搾り出す作業を上槽と言い、お酒造りの最終段階であり、お酒の品質を左右する非常に重要な工程です。上槽には様々な方法がありますが、大きく分けて自動で行う方法と、昔ながらの人の手で行う方法があります。自動で行う方法では、遠心分離機やフィルターなどを用いて醪を分離しますが、人の手で行う方法には、袋にもろみを入れて自然に滴り落ちるのを待つ「雫取り」、袋を積み重ねて上から圧力をかけて搾る「薮田式」、そして「責め」と呼ばれる伝統的な技法があります。「責め」は、酒袋を槽(ふね)と呼ばれる木製の箱に積み重ね、上から徐々に圧力をかけていく方法です。圧力をかける際に用いる道具や、圧力をかける時間、回数などを調整することで、お酒の味わいや香りを微妙に変化させることができます。「責め」は、機械では再現できない繊細な技術が必要です。経験豊富な杜氏が、醪の状態を見極めながら、丁寧に圧力をかけていくことで、雑味のない澄んだお酒が生まれます。この伝統的な技法によって搾られたお酒は、独特の風味と深みを持ち、高い評価を得ています。このように、上槽は単にお酒と酒粕を分離するだけでなく、お酒の品質を決める重要な工程であり、様々な方法によってお酒の個性が生み出されています。そして「責め」のような伝統的な技法は、日本の酒造りの文化を支える大切な技術として、今もなお受け継がれています。