酛立て

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日本酒

蔵付き酵母が生み出す神秘の酒

お酒造りにおいて、アルコールを生み出す微生物である酵母は欠かせない存在です。その酵母を酒母に加える方法には、大きく分けて二つの方法があります。一つは、あらかじめ純粋に育てられた酵母を加える方法です。この方法は、酵母の働きを管理しやすく、安定した品質のお酒を造りやすいという利点があります。香りや味わいを調整しやすいという点も、現代の多様な好みに応える上で重要な要素となっています。もう一つは、蔵に住み着いた酵母をそのまま利用する方法で、一般的に「酵母無添加」と呼ばれています。この方法は、空気中を漂う様々な酵母や、蔵の壁や道具に付着した酵母など、多種多様な酵母が自然と酒母に入り込み、複雑に作用し合います。そのため、同じ蔵であっても、その年その年で異なる味わいが生まれるという、独特の魅力を持つお酒となります。まるで自然のオーケストラのように、様々な酵母が織りなすハーモニーは、他の製法では再現できない奥深い味わいを生み出します。この「酵母無添加」の製法は、蔵に棲みつく酵母、その土地の気候、そして蔵人たちの長年培ってきた経験と技術、これら全てが揃って初めて実現できる、伝統的な手法です。蔵という小さな宇宙の中で、自然の力を最大限に活かし、唯一無二の味わいを醸し出す、まさに日本のお酒造りの奥深さを体現する製法と言えるでしょう。自然の恵みに感謝し、長い歴史の中で受け継がれてきた技術を守り続けることで、これからも様々な表情を見せるお酒が生まれていくことでしょう。
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酛立て:酒造りの最初の儀式

お酒造りは、幾つもの工程を経て、丁寧に造られます。その中でも、酛(もと)立ては、お酒造りの最初の工程であり、その年の酒の出来栄えを左右する重要な作業です。酛立てとは、酒母(しゅぼ)造りの最初の段階で、蒸した米、麹(こうじ)、仕込み水を混ぜ合わせる工程を指します。この酛立てによって、酵母(こうぼ)が増え、お酒造りに必要なアルコール発酵が促されます。酛立ては、いわばお酒造りの生命を吹き込む儀式とも言えるでしょう。蔵人(くらびと)たちは、長年の経験と勘を頼りに、慎重に作業を進めます。温度や湿度、原料の配合など、様々な要素を考慮しながら、最適な環境を作り出す必要があるからです。酛の中には、乳酸菌や様々な微生物が存在し、これらが複雑に作用し合うことで、独特の風味や香りが生まれます。しかし、これらの微生物のバランスが崩れると、お酒の品質に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、蔵人たちは、酛の状態を常に注意深く観察し、微生物のバランスを調整しながら、最適な環境を維持する必要があります。酛立ての出来栄えが、その後の酒造りの全工程に影響を与えるため、蔵人たちは細心の注意を払いながら作業にあたります。具体的には、蒸した米と麹を混ぜ合わせる際には、均一に混ざるように丁寧に手作業で行います。仕込み水も、水質や温度にこだわり、最適なものを選びます。そして、これらの材料を混ぜ合わせた後、一定の温度と湿度で管理することで、酵母が順調に増殖するように促します。酛立ては、単なる作業ではなく、蔵人たちの技術と経験、そして情熱が込められた、お酒造りの根幹を成す重要な工程と言えるでしょう。 良質な酛は、雑味のない澄んだお酒を生み出すため、蔵人たちは酛造りに全力を注ぎ込みます。こうして丹念に造られた酛から、やがて芳醇な香りが漂う、美味しいお酒が生まれてくるのです。