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日本酒

日本酒の並行複発酵:複雑な風味の秘密

日本の伝統的なお酒である日本酒は、世界に誇れる醸造技術の粋です。米、水、麹菌、酵母という簡素な原料から、複雑で奥深い風味を持つお酒が生まれる様は、まさに職人の技の極みと言えるでしょう。日本酒の魅力は、何と言ってもその多様な香りと味わいにあります。果実を思わせる華やかな吟醸香や、熟成によって生まれる甘い蜜や焦がし砂糖のような香り、口にした時のすっきりとした辛口、まろやかな甘口など、実に様々な表情を見せてくれます。このような多様な風味を生み出す上で欠かせないのが、「並行複発酵」と呼ばれる日本酒独特の発酵方法です。これは、糖化とアルコール発酵がタンクの中で同時に行われるという、世界的に見ても稀な発酵方法です。通常、お酒造りでは、原料に含まれるでんぷんを糖に変える「糖化」と、その糖をアルコールに変える「アルコール発酵」という二つの工程が別々に行われますが、日本酒造りではこの二つの工程が同時進行で行われます。麹菌が米のでんぷんを糖に変え、同時に酵母がその糖をアルコールに変えていく、この絶妙なバランスこそが、日本酒の複雑で奥深い味わいを生み出す鍵となります。この並行複発酵によって、日本酒には様々な香味成分が生まれます。例えば、吟醸香と呼ばれるフルーティーな香りは、酵母によって生成される吟醸香成分によるものです。また、熟成によって生まれる甘い香りは、アミノ酸と糖が反応することで生成される香味成分によるものです。日本酒の味わいは、原料の米の種類や精米歩合、使用する水、麹菌や酵母の組み合わせ、そして職人の技術によって大きく変化します。このように、日本酒は繊細で奥深い世界を持つお酒であり、その魅力を探求する旅は尽きることがありません。