
酒造りの鍵、生酸菌の役割
お酒造りにおいて、生酸菌とは酒母や醪の中で酸を生み出す微生物の総称です。これらは、お酒の味や品質に大きな影響を与える小さな生き物たちです。そのほとんどは乳酸菌で、ヨーグルトや漬け物などにも含まれる身近な菌の一種です。生きた菌であるがゆえに、その活動は蔵の環境に大きく左右されます。温度が高すぎても低すぎても、栄養が足りなくても、他の微生物との競争に負けても、うまく活動できません。まるで生き物を育てるように、蔵人たちは細心の注意を払いながら、これらの小さな生き物たちの活動を見守っています。酒蔵の中の温度や湿度、米や水に含まれる栄養分、そしてそこに住む他の微生物たちとの関係など、様々な要因が複雑に絡み合い、生酸菌の働きに影響を与えます。蔵人たちは長年の経験と勘、そして最新の科学的知見を駆使して、これらの要因を調整し、目指すお酒の味を作り出しています。これはまさに、微生物との共同作業と言えるでしょう。生酸菌の主な役割は酸を生み出すことですが、それ以外にもお酒の風味や熟成に深く関わっています。酸は雑菌の繁殖を抑える働きがあり、お酒の品質を保つ上で非常に重要です。また、酸味はお酒に爽やかさやキレを与え、味わいに奥行きを生み出します。さらに、生酸菌の中には、独特の香りを生み出す種類もいます。これらの香りがお酒に複雑な風味を与え、より一層の魅力を引き出します。しかし、生酸菌は常に良い働きをするとは限りません。増えすぎると酸味が強くなりすぎたり、好ましくない香りを生み出すこともあります。このような場合は、蔵人たちは温度管理や他の微生物の活用など、様々な工夫を凝らして生酸菌の活動を制御します。古くから受け継がれてきた酒造りの知恵は、まさにこれらの微生物との付き合い方の知恵と言えるでしょう。微生物の力を借りて、最高の味を引き出す、それが酒造りの奥深さなのです。