飯米

記事数:(1)

日本酒

日本酒の神秘:水酛造り

水酛(みずもと)とは、日本酒を作る上で欠かせない酒母(しゅぼ)造りの一種です。酒母とは、麹(こうじ)と蒸米(むしまい)、そして水を混ぜ合わせて作るお酒のもととなる液体のことを指します。この酒母造りの方法の一つが水酛です。水酛の特徴は、自然界に存在する乳酸菌の力を借りて、乳酸を生成させる点にあります。まず、蒸した米を水に浸します。これを桶(おけ)に入れて、数日間置くと、水の中に自然と乳酸菌が繁殖し始めます。この乳酸菌が、糖を分解して乳酸を作り出します。こうしてできた乳酸を含んだ水を酛(もと)として使用するのが水酛造りです。人工的に乳酸を添加する速醸酛(そくじょうもと)とは異なり、自然の力に頼るため、完成までには長い時間と手間がかかります。仕込みの時期や気温、水質など、様々な条件が影響するため、蔵人(くらびと)たちは細心の注意を払いながら、日々変化する酛の状態を見守っていきます。しかし、この手間暇をかけることで、水酛で仕込んだお酒は、他にはない独特の風味と奥深い味わいを持つようになります。乳酸菌が生み出す乳酸だけでなく、様々な微生物が複雑に作用しあうことで、複雑な香味成分が生まれます。水酛は、生酛系酒母の原型とも呼ばれています。その起源は室町時代後期にまで遡ると言われ、江戸時代には最も主要な酒母造りの方法として広く普及していました。当時の人々は、水酛造りの難しさゆえに、その完成を神仏の加護によるものだと考えていたそうです。その後、明治時代に速醸酛が開発されると、その簡便さから多くの酒蔵が速醸酛へと移行しました。現代では、水酛造りを行う酒蔵は限られています。しかし、伝統を守り続ける蔵元たちの努力によって、今もなおその技術は受け継がれています。手間暇を惜しまず、自然の力を最大限に活かすことで生まれる水酛造りの日本酒は、日本の伝統的な酒造りの文化を今に伝える貴重な存在と言えるでしょう。